光学設計ノーツ
光学設計ノーツ 1
閉じられた系における光波の振る舞い
光学設計に関連した、光学的トピックをこれから、ここに記させていただこうと思う。
より単刀直入に言えば、光学設計者である私の興味のある内容、或いは改めて整理をして
おきたい内容を系統的にではなく、自由にこの場をお借りして書かせて戴こうと言う心積
りである。浅学な著者による、甚だ恣意的なトピックの選択に過ぎるやもしれないが、イ
ンターネット上においてのみ容易い形式でもあろうし、これらのノーツのどこかで共感を
お持ちいただき、少しでも御付き合い戴ければ幸いである。
さて、第一回目として今回は、光波の伝播において重要な概念・モードを考える上で
基本と成る定在波(定常波)から記述を始めさせていただこう。
1. 定在波
波動の一般的な形は進行波x>0 方向に進む)と後退波x<0 方向に進む)により以下
の様に表せる。

vtxgvtxftx
,
この波が両端(幅 L、固定された弦の振動の様な物と考え、固定された両端で反射されて
いるとする。まず、一つの端、
=0では変位が0であるから、

0,0
vtgvtft

vtfvtg
従って、如何なる
に対しても上式は成立せねばならないから、任意の値αに対して

fg であって、
t
x
とすれば(1)式は

vtxfvtxftx
,
とも書ける。(2)式右辺の二つの波は形状が y軸、x軸に対して互いに反転した、それ以外
は等しい形の波である。
さて、x=0 端においては正弦波を

taytf cos
とすれば、(2)式より


tatatatat coscoscoscos,0
さらに(1)式と比較すると x=0 の固定端では進行波と後退波(x=0 点で反射される入射波と
後退波とも考えられる。)の位相はπずれることが分かる。
さて、もう一方の固定端でも同様に

0,
vtLfvtLftL
(3)
である。
ここで、 k
v

2なので複素表示を導入して正弦波による
  
tkxivtxivtxf
exp
2
exp
となる最大振幅 1の平面波を波動として考えれば(2)式は、k=2π/λとして、
 


ikxikxtitkxitkxitx
expexpexpexpexp,

kxiti sin2exp
となる。この波は、全ての
座標において各周波数ωで振動する波であり、その振幅は
に依存し、sin(
kx
)=0 の場所では常に時間に依存せず振幅φ=0となり、節となる。この波
動は(2)式、或いは(4)式で表される、向きは異なるが、切抜きと考えた場合の基本形状は等
しい 2つの進行波と後退波の合成によって表され得るものである。両端が固定されている
場合には、(3)式から sin(
kL
)=0 であらねばならないので、
mkL (m:整数)
が常に成り立たなければならない。この
L
の間隔の中に波は常に整数倍の山、あるいは谷
を持つことになる。もしこれ以外の波が初期的に存在していたとしても、固定端から反射
される(5)を満たす波に吸収されてしまい、安定した節を持つ、(4)式で表される定在波
(或いは定常波)となる(図 1。角周波数はω=
kv
(5)式より
πv/
L
となり、
依存したとびとびの値を持つ。これらの波動は
の違いによりモードが異なる波と呼ばれ
る。
この様に閉じられた系においては、波動の互いの干渉により存在できる波動の形が制限
され、その具体的な形として各モードの波動が派生する。このモードの概念は、レーザ発
振(金属反射面の場合には電場は0となり節となる上記定常波と同じ性質の波が発生する)
光ファイバー、導波路などの部分的、或いは方向的に閉じられた系に於ける光波を考える
場合に重要なものとなる。光学設計で一般的に扱う、自由空間伝播系においての光波の挙
動を考える場合には存在しない概念である。
2. ある角度をもって交わる2つの平面波の干渉
ここでは、ある角度
軸と為す角度θ)をもって、振幅Aも角周波数(ω)も等
しい二つの平面波が交わる場合を考えよう(図 2。すると合成波は、

trkiAtrkiAtyx
21 expexp,,


sincosexpsincosexpexp ikyikxikyikxtiA
tkxikyA
cosexpsincos2 (6)
となる。
y
方向について(6)式を見ると、明らかに
ky
sinθ=(2
m
-1)π/2 (7)
の時に節をもつ定在波が現われている。
方向には位相速度が 1/cosθ速まっただけの一般
形の正弦波が進行する。この正弦波が
y
方向には(6)式で表される
y
方向には固定された振
幅のウエイト関数を伴って伝播すると考えられる。従って、ある時間内で強度平均して考
えれば(7)式で決まる位置にλ/(2sinθ)周期の節(強度0の部分)を持つ干渉縞が観察され
る。
3. スラブ導波路における定在波
2次元的に、x-z 方向には均質な広がりを持つ、3層のスラブ導波路を考えた場合(図 3
光波は屈折率の高いコア層内を全反射しながら進む。
方向には系は閉じていないので全
反射条件を満たす入射角度範囲の光波は、この方向についてのみ考えれば全て導光されて
行く様に見える。しかし、
方向には低屈折率のクラッド層により、全反射する光波の
成分は封じ込められている。従ってビーム径がコア厚に近い大きさであれば、上記2節に
おけるように、光波の
方向成分について考えると、境界に入射する光波と、そこで反射
する光波とで両側のコア境界からそれぞれ微少量
d
δ、クラッド側に入り込んだ位置を節と
する定常波が発生する。定常波はこれら節を(4)式於ける、
x
=0,
x
=
L
の位置として、(5)式で
定まった状態をとらねばならなく、自由に全反射を利用して光波が入射・伝播出来るので
はなくコア、クラッドの屈折率、寸法、波長、入射角度などが一定の条件を満たす必要が
出てくる。それらの値により導波路中の電磁界分布のモードも定まる訳である。
参考文献
1) 大坪順次:光入門(コロナ社、東京、2002
2) 櫛田孝司:光物理学(共立出版、東京、1985
3) 国分泰雄:光波光学(共立出版、東京、2003