光学設計ノーツ
光学設計ノーツ 12 (ver.1.0)
フェルマーの原理からアイコナール方程式、光線方程式へ
前回、光学設計ノーツ 11 において光線を中心としたマリューの定理とフェルマーの原理につ
いて触れた。Maxwell の電磁方程式以前の光学の重要な出発点である。今回はその続きとし
て、フェルマーの原理からアイコナール方程式の、そして媒質中で光線が進むべき経路を具体
的に定める光線方程式の導出を行なう。
1.フェルマーの原理から導くアイコナール方程式
一つの光線上に点 A(x,y,z)B(x’,y’,z’)を決める。これらの点は互いに共役点ではないとす
る。フェルマーの原理から光路長[AB]=
L
)は点 A,B の座標の関数として一義的に決まる。
ここで、B点は固定したままで、A点が微少量
ds
移動した A’点と、固定されたB点とにより
決められる光線を考えよう。この時、光路長[A’B]
L
dL
とすれば、系は図 1の様に波面と
共に表せる。
Aを通過する光線の方向余弦成分をα、β、γとすれば、物界の屈折率をn、光線の方向
図1 フェルマーの原理からアイコナール方程式を求める
を表す単位ベクトルを
として、微小な変化 rd
(
dx,dy,dz
)の場合には波面を平面と考えられ
て、ベクトルの方向に注意して内積を用い、
dzdydxnidrndL
とすることが出来る。同様に、像界に屈折率 n’元々の光線方向余弦成分α、β 、γ を考え、
今度は A点を固定し、B点が rd
(
dx’,dy’,dz’
)移動したとすれば、
''''''''' dzdydxnidrndL
とできる。よって、点 AA’と移動し、その後、点BB’とさらに移動した場合には(1)(2)
より

'''''' dzdydxndzdydxndL
となる。
ここで(3)式を微分すれば
n
z
L
n
y
L
n
x
L
,,
n
z
L
n
y
L
n
x
L,,
これらの式の右辺は方向余弦に屈折率の係ったものであるから
2
2
2
2
n
z
L
y
L
x
L
(5-1)
2
2
2
2
n
z
L
y
L
x
L
(5-2)
(5-1)式は別の表現では
2
2
grad nL
である。
これは、Maxwell の電磁方程式より導かれる、アイコナール方程式であり、斯様にフェ
ルマーの原理からも導出できる。
L
Hamilton の特性関数とも呼ぶ。
2. 光線の成り立ち
grad Lとは Lxyz c(, ,)(定数)なる曲面上の点 (, ,)xyzにおいての接平面に直交する
ベクトル、つまり法線ベクトルを表している。すると grad Lはその表面上で
L
が一定な幾何
光学的波面に、直交するベクトルと看做せる。この、多数の波面の法線を極微小な単位で繋げ
ていったもの、波面法線の描く軌跡を我々は“光線”と考えて来た(図 2
今までのところ、屈折率 nを一定には扱っていないので、座標 (, ,)xyzにより nxyz(, ,)が変
化し波面が同心円的に広がらず、光線が必ずしも直線とならず、曲線を描く可能性も考えられ
る。
図2 光線と波面
さてここで、A点、或いは B点の変位が光線経路上において起きると考え直す(図 3
その場合も上記(4),(5)式は成立するはずである。そして、それらの点の座標(x,y,z)を示す位置
ベクトル
r
を導入し、その位置ベクトルの変化を d
r
とすれば、
dsird
よって
ds
rd
i
(8)
となる。
ここで、簡便のため像界における(4)式の総てのダッシュを省いて表記するとしてn’
→nの如く)、方向余弦成分は
ds
dx
, ds
dy
, ds
dz
図3 光線上の変化
であるので、(4)式より、
x
L
ds
dx
n
(10-1)
y
L
ds
dy
n
(10-2)
z
L
ds
dz
n
(10-3)
(9)から(10)式を2乗して辺々加えていけば
2
2
2grad L
ds
rd
n
L
ds
rd
ngrad
(11)
また、
x,y,z
の関数であるので、10-1)式を辺々sで微分すると
x
L
zds
dz
x
L
yds
dy
x
L
xds
dx
ds
dx
n
ds
d (12)
12)式に(10)の-1から-3式を代入して
x
L
zz
L
nx
L
yy
L
nx
L
xx
L
nds
dx
n
ds
d111
2
2
2
2
1
2
1
2
11
z
L
xy
L
xx
L
xn
2
2
2
2
1
z
L
y
L
x
L
xn (13)
よって(5)式、アイコナール方程式より
2
2
1n
xnds
dx
n
ds
d
(14)
同様に計算し、 kjh
,, の各成分単位ベクトルを考え各成分を合成すると、
k
z
n
j
y
n
h
x
n
n
k
ds
dz
n
ds
d
j
ds
dy
n
ds
d
h
ds
dx
n
ds
d
222
2
1 (15)
右辺に
grad)()(grad ff
の関係を適用して
n
ds
rd
n
ds
dgrad
(16)
この式の右辺は座標 (, ,)xyzによる屈折率 nxyz(, ,)の変化量を表し、左辺は(11)より明
らかな様に光線の経路が屈曲する量を表している。つまり屈折率の空間分布がわかれば光線の
方向を計算することができる。16)式を光線方程式と呼ぶ。
ここで一般のレンズに用いられている硝材の如き屈折率が一定の媒質を考えれば、当然、
媒質中の屈折率の変化が無いので grad n=0となり、左辺の微分を実行すれば
0
ds
rd
ds
d
n
ds
rd
ds
dn
(17)
()式両辺をさらに sで微分すると
ds
rd
ds
d
ds
id
従って(17)式は
0 ds
id
n
ds
rd
ds
dn
場所による屈折率の変化が無いので
0
ds
id
であるから、光線の進行方向を表すベクトル i
は一定となる。すなわち屈折率が一定の媒質内
では光線は直進する。
4. 参考文献
1. M.Born & E.Wolf : 光学の原理Ⅰ、第 7 版/草川徹訳(東海大学出版会,2005)
2. 飯塚啓吾:光工学(共立出版、東京、1983)
3. 松居吉哉:収差論、(日本オプトメカトロニクス協会、1995、東京)
4. 三好旦六:光・電磁波論(培風館、東京、1995)
5. 牛山善太、草川徹:シミュレーション光学(東海大学出版会、東京、2003)