光学設計ノーツ 18(ver.1.0)
ストローベルの定理と輝度不変則
S,S’ついての輝度不変則を導きそこから
正弦条件を求めた。今回は共役関係に無い光斑 S,S’(途中に光学系が存在し
ていても良い)についてもこの輝度不変則が成立する事を示す。必ずしも共
関係にある訳ではない、光源、被照明面の関係を扱う事の多い、一般的な照
系の取り扱いにおいてはこちらの考え方のほうがより重宝であろう。そのた
にはまず、ストローベルの定理を導かねばならない。
1. ストローベルの定理の導出と輝度不変則
光路中にレンズなどの光学系が存在する場合の、光学系を透過した輝度に
ついて考えよう。
1 にある様に、平面上の微小な面積
dS
を持つ光源 S からの光束が形成するある平面
上の幾何光学的な光斑 Sの微小な面積を
dS
と置く。ここでは
dS
dS
は共役関係に無い一
般的な状態を想定する。また、光線 A、Aを定め、簡潔のために、この光線と光軸の定める
メリディオナル断面内に微小平面 S,Sの法線が含まれるとする。
さらにこの断面内においては S,Sはそれぞれ微小な長さ
dr、dr
で表わされることにな
るが、光源面上、点 A から微小な距離
dr
離れた位置にある点 B を設ける。この B から光線
AAと平行に射出し、被照明面上において点 Aから微小な距離 dr離れた位置にある点 Bに至
る光線を考える。
そして平面 S の法線と光線 AAのなす角度を、平面 Sの法線と光線 AAのなす角度を
としよう。物界、像界の屈折率はともに一様であり、それぞれ
n,n
とする。さらに、B から
光線 AAへの垂線の交点を C とする。さらに光線 AAに沿った光路長[CA]と[BC]が等しくな
るように光線 BB上に点 Cを置く。従って

BCCBACACBBAA
(4)

BCACBBAA
さて、ここで図 1 に戻ると、光線 AA,BBを含み、線分 BC を直交して横切る光斑 S
の光線群を考えると、これらは、A、Cを含む曲線に、互いに等しい光路長を為して直交する。
曲線 ACはこれら光線の波面の切り口となる。
ここで、[CB]について検討しよう。 2 にある様に、波面 CAの中心を O、その曲率
径を
R
とする時、簡単な考察から以下の関係が成り立つ。
22
2
cos
2
sin
rdRrdRBC (5)

22 sincos
rdRrdR
計算して、整理すると、
2
2
sin2
1R
rd
R
rd
RRBC
R
はS,Sが微小な大きさである時、微小量 dr、drと比べて非常に大きな値となるので、根
号内小括弧内の第 2 項は4次以上の微小量として無視できる。また、同第 1 項も2次以上
の微小量であるから、一次近似の公式を用いて、
R
rd
RRBC
sin2
2
1
1
sinrd (5.5)
従って、図 1 より

sinsin rdnndrBBAA (6)
(ここでの(5)式から(6)式にいたる波面近似の考え方は前回光学設計ノーツ17回の(3)
式等の導出の際にも、同様に用いることが出来る。
さて、ここで図 3 にある様に、A から Bに向かう光線を考えよう。この時、光線 AB
主光線のなす角度を
、光 BBとなす角度を
とする。それぞれ微小な角度である。
た、
[BB]=[C#B]
[AA]=[AC#]
と成るように、光線 AB上に点 C#、C#を置く。ここでも、 A を出た光線群は、これらの光
線が等光路長で直交する波面 AC#を形成すると考えられる。逆に点 Bを出発する光線群を
考えれば、これらは波面 BC#を形成するとも考えられる。
従って

BCCCCCACBBAA
######

BCACBBAA
##
ここでも、[AC#]、[C#B]について(5)式から(5.5)式におけるのと同様の考え方が成り立ち
S,Sが微小であるとすれば、図 2 より、

)sin()sin(''
drdndndrBBAA
ここでさらに、三角関数の加法定理を用い、
、d
dβ
dr/R
程度の 2 次の微小量で
ある。)が微小であることによる1次近似を行ない上式は以下の如くに整理される(αは必
ずしも微小ではない)


drdndndrBBAA cossincossin'' 14
(6)式と(14)式の辺々の差をとると
drdndndr coscos0
よって、
drdndndr coscos 15
ここで、
dr、dr
と主光線を含む平面と垂直方向の平面を考え、図 4 にある様に、この平面
内での光源、光斑の長さ
dt、dt
、点 D,D、微小角度
、d
をとる。図 3 と図 4 を比較す
れば図 4 において線分 AD、ADが主光線と垂直であるところが異なるだけであるので、α=0
と置いた場合の(15)式と同様の形として
dtdnndtd 16
なる関係が得られる。ここで(15)(16)式を辺々掛け合わせれば、
光源、光斑の微小面積について
drdtd
S
t
d
r
d
S
d
dS、dS
にそれぞれ張る立体角について
ddd
ddd
と置いて
d
S
dndSdn
coscos 22 17
なる重要な関係が導かれる。両辺に保存される量はエタンデュー(etendue)と呼ばれる。
ところで、前回と同様に光学系による吸収がなければ物界と像界においてのエネルギー保
存則が成り立つので、それぞれの界において微小面積に関わる輝度が一様であるとして
dSdBdSdB
coscos 18
従って
n=n=1
とすれば、(17)式より
B
B
放射輝度の不変性が導けた。光学系が光路中に存在していても、ここで考えた細い光束に
沿って輝度は保存される。又、ここでの共役結像関係に無い
dS、dS
において(17)式の関係
が成立すると言う内容を、ストローベル(Straubel)の定理と呼ぶ。
2. 参考文献
1) 鶴田匡夫:第4・光の鉛筆 (新技術コミュニケーションズ、東京、1997)
2) 牛山善太、草川徹:シミュレーション光学(東海大学出版会、東京、2003)