光学設計ノーツ 2 ver1.1
薄い膜による干渉・光学薄膜の基礎
今回は光学薄膜を理解する上で基礎となる、任意の屈折率を持った基盤平面上の、平面
により構成される薄い膜による干渉について考える。一般的には反射防止膜を基礎的に理
解するために良く用いられるテーマである。
1.薄い平面板としてのモデル
1 薄い膜による干渉
1にある様に、媒質境界面番号を定め、基盤の屈折率を
n
2、厚さ
の薄膜の屈折率
n
1、薄膜の外側を空気
n
01とするする。また、光波(無限に広がる平面波)が1から
n1
n2
θ1
θ2
1
2
θ3
2へ進む場合の第一面における振幅透過率、振幅反射率をそれぞれ、
t
1
,r
1とし、 2面につ
いても同様に
t
2,
r
2を定義する。光波が2から1に逆に進む光波を考える場合には上記係数
にダッシュをつけて表現するものとする。すると、空気中に戻ってくる振幅
u
r
を得ようと
すれば、初期入力複素振幅を
u
0、薄膜内を片道通過する際の光波の位相変化をδとして、


6exp4exp2exp 12121210121210121010 itrrrrrtuitrrrtuitrturuur (1)
となる。ところで境界面の屈折・反射においての Fresnel の公式 3)p42 より媒質 1から 2
の入射角、屈折角をそれぞれθ、θ2とすればs偏光成分について、

 
21
12
21
21
sin
cossin2
,
sin
sin
ss tr (2)
また、媒質 2から媒質 1へ上記の場合と逆に進む光波を考えれば、θ、θ2が入れ替わる
だけであるから

 
21
21
21
12
sin
cossin2
,
sin
sin
ss tr (3)
よって(2)(3)式より
1, 2
sssss rttrr (4)
また、p偏光成分について,Fresnel の公式 3)p44

 
2121
12
21
21
cossin
cossin2
,
tan
tan
pp tr
(5)

 
1221
21
21
12
cossin
cossin2
,
tan
tan
pp tr
従って、やはり
pp rr
(6)
また



 



1
cossin
sinsinsin1sin
cossin
sinsin
cossin
cossin
21
2
21
2
21
2
21
2
21
2
21
2
21
2
21
2
21
2
21
2
21
2
21
2
21
2
21
2
2
pp
pttr
よって、より一般的に
1, 2
rttrr (7)
となる。これは重要な関係である。
2. 反射光と透過光の強度計算
さて、この関係を(1)式に持ち込めば


6exp)1(4exp)1(2exp)1( 2
1
2
1
3
20
2
11
2
20
2
12010 irrruirrruirruruur
右辺第 2項からの等比級数は公比が
2exp
21 irr
となるので、その収束値より


2exp1
2exp
2exp1
2exp)1(
21
210
21
2
120
10 irr
irru
irr
irru
ruur
(8)
従って、この系から反射される光波の強度(単位面積あたりのエネルギー)は 3),P21


2exp1
2exp
2exp1
2exp
21
21
21
21
2
0
2
0irr
irr
irr
irr
uuuunI rrrr
2cos21
2cos2
21
2
2
2
1
21
2
2
2
1
2
0rrrr
rrrr
u
(9)
となる。
さて、今度は基盤内に透過する振幅について考えると、


7exp5exp3expexp 212121210212121021210210 itrrrrrrtuitrrrrtuitrrtuittuut
ここで、(7)式の関係を用いて


6exp)(5exp)(3expexp 2
3
12102
2
121021210210 itrrtuitrrtuitrrtuittuut
やはり級数の収束値を考え

2exp1
exp
12
21
0irr
itt
uut
(10)
従って強度は
2cos2)(1
)(
12
2
12
2
21
2
02 rrrr
tt
unIt
(11)
となる。
もし、(9)式において
r
1=
r
2=
r
なる条件が満たされているとすれば(9)式は
2cos21
)2cos1(2
24
2
2
0
r
r
r
uIr
(12)
となり cos2δ=-1の時、つまり
を整数としてδ=(2
m
1)πである時、(12)式より反射
光強度は0となる。これが反射防止膜(コート)の原理である。
さて、この時、透過光強度について考える。ある面における光の強度とは、単位時間に、
その面の単位面積あたりに通過するエネルギーの事である。振幅の絶対値の2乗に屈折率
を乗じた強度は光波の進行方向に直交する面における強度であることに注意すると3)p.21
屈折後の光束の断面積の変化も考慮して、 2に置けるスネルの屈折則を考えた様な場合、
2 境界面での入射、屈折、反射光
境界面上において
2
2
2
1
2
1
1
2
01
cos
1
cos
1
cos
1
tr AnAnAn
となる。
A
0
,A
r
,A
t
はそれぞれ、入射光、反射光、透過光の振幅である。ここで、(12)式以
前の通り、
n
11
n
2
n
1
A
0
u
0 と置き直して入射光、反射光、透過光振幅の関係を
導入して、以下の関係が得られる。
θ1
θ2
n1
n2
1
2
01
2
0
2
12
2
0
2
11 coscoscos
uurutn

2
1
21
1
2
11
cos
cos r
n
t
(13)
同様に考えて

2
2
32
21
2
21
cos
cos r
n
n
t
(14)
上記のように
r
1=
r
2=
r
とすれば

2
21 tt

2
2
32
11
cos
cos r
n
(15)
従って入射光束と透過光束におけるエネルギーの比を取れば(11)(15)式より
1
cos
cos
3
100
tt I
I (16)
となり、入射光と反射光+透過光の間で当然のことながらエネルギーが保存される事が分
かる。
3.参考文献
1) 村田和美:光学(サイエンス社、東京、1979
2) 辻内順平:光学概論Ⅱ(朝倉書店、東京、1979
3) 牛山善太:波動光学エンジニアリングの基礎(オプトロニクス社、東京、2005