光学設計ノーツ 24(ver.1.0)
結像の評価 MTF
白黒の細かい線が、一体どのくらいの細さのものまで、その光学系により再現可能かを示す指標が
解像力である。実際には 1mm の中に細かい線が何本解像されているのか、ミリ10本、ミリ100本
などの様に言われ、表現される。この解像力、あるいはその表示方法は直感的に理解し易く、また
測定によって実測値も簡単に得られるので、非常に広く光学系の性能を表わす仕様として用いら
れている。
ところが、少し考えてみれば分かる通り、結像性能のみを問題にする場合でも、細かい被写体
が写るか、写らないかのみで画像の評価をすることには無理があり、また、目視検査においても、
解像していることの判断基準の決定も難しい。そう細かくない被写体を写す場合にも、その結像に
おいて個々の要素がしっかりと認識できるほどであるとしても、その写り方にはコントラストの面など
においても違いが存在する。
より、客観的で、定量的、多面的な大量の情報が画像の評価のためには求められる。そこで、
用いられるのが、MTFModuler Transfer Function)あるいは、OTFOptical Transfer
Function)と呼ばれる評価量である。上記の通りの扱い易さにより、解像力という性能を表わす言
葉は、現在でも光学系を考える場合に多く用いられ続けているが、光学設計における性能評価、
あるいは一部の写真レンズを含む、高性能な光学系の実際の性能検査においては、MTF は最も
重要な評価量として用いられている。光学設計者たちは、さまざまな条件下の光学系においての
十分な高さの MTF 値を得るために努力を続けている。
. フーリエ変換について
基本周期Tで繰り返す、波形は、周期 T の正弦波を基本として
T/2 T/3 T/4
と言う、周期が T の整数分の1である正弦波の要素に分解できる。そして、それらの要素の合成とし
て表現することができる。図1に詳細は後述するが、一例として矩形状の周期波が、要素波の合成
により次第に再現されていく様子を示す。
1次元の場合、合成関数を f(x)として、n=0,1,2…に対して

1
02sin2cos
nnn T
n
xb
T
n
xaaxf
(1)
と表現することが出来る。この和、f(x)をフーリエ(Fourier)級数と呼ぶ。周期関数f(x)は(1)式に
ある様に、定数項と、重み付けられた、基本周波数の整数倍の周波数を持つ、cos、sin 波の合成
で表わされる。(1)式における an、bnは多数の正弦波の重みを表わす係数であり、フーリエ級数展
開において重要な意味を持つ。それらは以下の如くに計算することが出来る。

2
2
2cos
2T
T
mdx
T
m
xxf
T
a
(m=0,1,2, )

2
2
2sin
2T
T
mdx
T
m
xxf
T
b
(m=1,2, )3
フーリエ係数を決定すれば周期関数 f(x)を様々な周波数を持つ正弦波の合成として表現す
る事ができる。
この様な表現が可能なのは(1)式の級数の直交性による。基本周波数の任意の整数倍
n
,
m
の周波数を持つ二つの正弦波の積分は、n=m 以外の場合には正領域と負領域における積分の絶
対値が等しく成り、0になってしまう。従って、調べたい周波数の正弦波を合成関数 f(x)に乗じて積
分すれば、その周波数以外の成分の積分に対する寄与は0になり、その周波数における振幅が
(2)(3)式におけるように分離して得られる。それぞれが直交する座標軸による、n次元座標系におけ
る、それぞれの軸上の単位ベクトル同士の内積は、自分自身との内積の場合以外には直交するベ
クトルの内積として値を持たない。そこでの内積と同様の形式の計算が(2)(3)式で行われていると
考えてよい。
f(x)
1
-1
T-T 0
図1 格子状の周期関数 f(x)
図1(a ) f (x) 近づく正弦波の合成。
n=1の正弦波にる。
図1(b) n= 1 ,n=3の正弦波 の合成
図1(c ) n= 1,n= 3,n=5 の正弦波の合 図1(d) n=1,n=3,n=5,n=7,n=9,n=11,n=13
の正弦波の合成
さて、それでは、ここで図1に示される格子状の周期関数、
f(x)=-1 (T/2 x 0 )
( 0 x T/2 )
のフーリエ級数の算出を実際に行なおう。
f(x)か0で不連続になるので、23)式の積分を-T/2 から0、そして0か T/2
までに分けて行なうとその結果、
an=0
bn0 (nが偶数の場合)
n
4
(nが奇数の場合)
を得る。よて、f(x)のフーリエ級数は、

T
x
T
x
T
x
xf
10
sin
5
16
sin
3
12
sin
4
図1(a)から(d)に特定のnの値まで合成した関数 f(x)の様子を示す。
ここまで、f(x)を周期を持つ関数として扱ってきた。ところが実際には、我々は、光の
強度分布などの、一般的な周期を持たない関数を扱わなければならず、非周期関数に対す
るフーリエ級数の拡張を行なう必要がある。この拡張は周期 Tを無限大と考える事により
行われる。
さて、これまでnを整数の変数とする関数と見なし、1/T の間隔で値を離散的に持って
いた。
T
n
n
周波数は以上の様に 1/T の間隔で値を離散的に持っていた。ところが、Tとする事によ
って間隔が無限小になり、nは連続的な値となる。これを周波数と記す。すると、複素数
表示を用いて、また、F(ν)をνの正弦波の重みを表すフーリエ係数として
 
dxixxfF
2exp (4)

dixFxf 2exp (5)
(4)式における、F()を関数 f(x)のフーリエ変換、(5)式における f(x)F()の逆フーリエ
変換と呼び、F()f(x)は互いにフーリエ変換対の関係にあると言われる
2. OTF;点像の再現について
点光源などの大きさを持たぬ発光点、あるいは無限小の時間において生起する電気
信号などの、インパルスを表現する関数を定義しておけば、離散的なデータを扱うコンピュータに
よる様々な計算においても便利である。その一つの例として、積分値1をもつガウス関数を、その積
分値はそのままに、上方に伸ばし、その幅を無限に細くした関数(x)を考えると(図2)

2
2
0exp
1
lim
x
x (6)
幅が無限に狭く、上述の通り、

1
dxx
(7)
なる性質を保存しているので、原点においてはその値は無限大になる。この関数をディラック
(Dirac)のデルタ関数(delta function)と呼び、インパルス関数として非常に重要な関数である。
また、



10exp2exp
dxxixxFT
(8)
となり、デルタ関数のフーリエスペクトルは常に実数、1となる。
ここで、上述デルタ関数で光学系における点光源、あるいは被写体となる物点を表わすこととし
よう。すると(8)式から理解できるように、この点光源を表わす関数、デルタ関数は同じ強さ、振幅を
持った、連続的にその周波数が変化する無限の数の cos 波の重ね合わせで表現できる。もし仮に
総べての領域の周波数において、強さを損なう事無く、完全な振幅を再現できる光学系が存在す
るとすれば、この光学系は点光源の完全な点像を結像させる事ができる。
点光源の像が大きさを持ってし
まう。この大きさを持った強度分布をフーリエ変換すれば、一般的にそのスペクトルは周波数によっ
て変化し、高周波成分の振幅ほど大きく減衰して行く。ある特定の周波数に着目すれば、光の強
弱の分布を波として捉えて、その空間的な周波数における正弦波格子像の結像の被写体と比
た強さ、再現性を定量化する事ができる。さらに、幅広い周波数領域に着目すればその光学系の
特定の物点にたいする結像性能を総合的に理解、表現する事が可能となる。
で割って正規化したものを空間周波数伝達関数または、OTF(Optical Transfer Function)と定義
し、光学系の再現能力を定量的に表わす量とする。
1次元のフーリエ変換をそのまま2次元に拡張して、OTF を表現すれば、
I
(x,y)を像面上の点
像強度分布、PSF(Point Spread Function)、
s
t
をサジタル、タンジェンシャル(メリディオナル)方
向の空間周波数として、
  

dydxyxI
dydxtysxiyxI
tsOTF 

,
2exp,
,
(9)
分母の
OTF
(0,0)は構造が無い場合の明るさを表わしている。この基調の上に高周波成分の波が
重なり合ってくるので、平均すれば、この
OTF
(0,0)が像の全光量を表わしている。(9)式は一般的
に複素数を表わし、その絶対値を MTFModulation transfer function PTF
(Phase transfer function)と呼ぶ。
3. 参考文献
1) 牛山善太、草川徹:シミュレーション光学(東海大学出版会、東京、2003)
2) 草川 徹:レンズ設計者のための波面光学(東海大学出版、東京、1976)
3) 谷田貝豊彦:光とフーリエ変換(朝倉書店,東京,1992)