光学設計ノーツ 29(ver.1.0)
軸外結像におけるフラウンホーファー回折像について
本連載、前回においては無収差結像光学系による結像がフラウンホーファー
回折像と成ることについて触れたが、今回は一般的な画像評価のために繋がる、
軸外結像におけるフラウンホーファー回折像について考える。全画面、無収差結
像の光学系においても、一般的な構造の光学系では、軸上に較べ、軸外における
解像力は低下することが分かる。
1. 結像光学系の瞳関数
これまで用いられてきた
g
(
x
0,
y
0)は、スリットの形状を含め、スリット上の
振幅、位相変化などの複素振幅を表す。これを瞳関数(pupil function)と
だ。この瞳関数
g
()にスリットの情報のみならずレンズ系透過の際のさらなる情
報を含めることができる。それらは例えば、レンズの瞳形状であり、瞳上フィル
ターの透過率の情報である。そしてこれが非常に重要であるが、こうした瞳形状、
瞳上フィルター、あるいはレンズの位相変換機能(平面波を球面波に変換する様
な)以外の場合の、レンズ透過の再に生じる位相ずれを瞳上の関数として考慮す
ることができる。これはまさしく収差そのものである。収差によって生じる位相
ずれを、無収差の場合の参照球面との光路差として示したのが、波面収差である
から、瞳関数に波面収差を直接用いることにより、収差を持つ光学系の結像をフ
ラウンホーファー回折像として評価可能となる。
瞳関数の一般形は以下の様に表現出来る。

000000 ,exp,, yxWikyxSyxg
-(1)
ここで、関数
S
()はスリット、あるいは瞳の形状、フィルタリングによる振幅の
変動などを表すための最大振幅項である。
W
()は参照球面までの光路長(光線進
行経路長に通過する媒質の屈折率を乗じたもの)差、波面収差である。
2. 軸外結像におけるフラウンホーファー回折像
さて、ここで軸外結像に
おけるフラウンホーファー回折像の形成に関する式を導こう。前々回、前回
に於けるように、基本的なフレネル―キルヒホッフの回折積分式から、
 

d
s
iks
r
ikriA
PU 
cos1
expexp
2 (2)
さらに、角度χについては前々回述べた理由により、また、既述の瞳関数に射出
瞳上の振幅分布を組み込んでしまい、
 

0000
exp
,, dydx
s
iks
yxg
i
yxU
(3)
と表現できる。さらに結像系の場合、適切な近似により(本連載前回参照)
z
yyxx
z
yx
zs 00
22
2
(4)
と出来るので、この(4)式を(3)式に代入して
 
00
00
22
00
2
exp
,, dydx
s
z
yyxx
ik
z
yx
ikikz
yxg
i
yxU

(5)
ここで、図 1(a)から明らかな様に、sは積分中にそう大きく値を変えずに、exp
の項に含まれない場合には特にその変化が大きな影響を与えない。従って、zと
置き換えて積分の外に出せば、
 
00
00
22
00 2
exp,, dydx
z
yyxx
ik
z
yx
ikikzyxg
z
i
yxU

従って、
 
00
00
00
22
exp,
2
exp, dydx
z
yyxx
ikyxg
z
yx
zik
z
i
yxU

(6)
と表わされる。これが軸上結像を扱う上での一般的な結像式となる。
ここで、この式を軸外結像に対応させることを考えよう。 1(b)にある様に
軸外結像を想定して、射出瞳中心から強度分布中心までの距離
R
coszR
(7)
を導入して表記すれば、射出瞳における理想波面はその中心が軸外の理想結像点
であるから、
R
に置き換えれば、上で扱った軸上結像の場合と、角度δ傾
いた座標系においてまったく同様なパターンが成立するのは明らかである。従っ
て、
 
00
00
00
22
exp,
2
exp, dydx
R
yyxx
ikyxg
R
yx
Rik
R
i
yxU

(8)
と出来る。
ただしこの様に取り扱う場合には像面座標系は主光線に直交したものとな
ることに注意が必要である。y座標については主光線を新たなz軸とした、像面
平上における主光線到達点を局所座標系の原点とする座標上で考えねばならな
いし、さらに、本来の像面上で考えれば、本来の像平面からδ傾いた平面上での
回折像を考えることになり、例えば無収差の場合には、フラウンホーファー回折
像がメリディオナル方向に 1/cosδを乗じた程度に引き伸ばされることになる。
瞳座標も座標系が変わっている訳だが、瞳上の座標とその場所の複素振幅が指定
出来、
z
0座標は回折積分式には直接に含まれず Px,y)における影響が瞳全域
にわたって積分されるのであるから、積分機能自体に支障がなければ、どちらの
座標系で考えても問題は無い。
本連載においては近々に触れさせて頂くことになると思うが、無収差円形開
口の結像光学系による解像限界
R
S
を考えるのに際しレーリーの限界と言うのが
一つの目安となっている。ωは回折像のエアリーディスク半径を表す。波長をλ、
半径をρ、瞳-像面間の光軸に沿っての距離をzとすれば
z
RS
22.1
21 (9)
である。従って軸外結像に際しては、上述のようにzが Rに置き換えられ
cos
22.1
cos2
22.1
2
SS R
zR
R
(10)
この値が軸外サジタル方向の解像限界を表す。さらにメリディオナル方向につい
ては、上述の効果に加え、射出瞳径が軸外像点側からは cosδ分だけ小さくなっ
て(圧縮されて)見える(この効果は(8)式においては瞳関数に組み込まれる訳
であるが)。さらに、(8))式の像面座標がδ、正規像面と傾いているので cos
δを乗じた分、回折像が伸びる。従って、
3
3
cos
22.1
cos2
cos
22.1
cos2
SS R
zR
R
(11)
が軸外メリディオナル方向の解像力を表す。
回折式から、上記の開口の大きさが変化し、Pまでの距離も変化することに
よる効果について検討してみれば、まず、フラウンホーファー回折像を瞳関数を
定数と置いて、以下の様に表す。

00
00
1exp, dydx
R
yyxx
ikCyxU

(12)
ここで、回折像強度中心から距離、R’離れたところにある、y方向にμ倍された
大きさをもつ開口を持つ光学系を考へて、

00
00
2exp, dydx
R
yyxx
ikCyxU

(13)
と置く。
ここで、
RRyyxx
1
,
1
,0000
(14)
として、(13)式の積分変数を置き換えると

)(exp, 00
00
2ydxd
R
yyxx
ikCyxU

00
0
2
0
exp ydxd
R
yyxx
ikC

 

yxU
C
C2
1,
  (15)
と成り、y方向にμ倍になった開口に対して、その方向に回折像は 1/μ2倍、直
交方向に 1/μ倍に成ることが分かる。(11)式ではさらに像面が傾くことについて
の効果が乗じられている。
参考文献
1) M.Born & E.Wolf : 光学の原理Ⅰ、第 7草川徹訳(東海大学出版会,2005)
草川 徹:設計者の波面光学(東海大学出版、東京、1976)
辻内順平:光学概論Ⅰ朝倉書店、東京、1979)
鶴田匡夫:応用光学Ⅰ培風館、東京、1990)
5) 牛山善太波動光学エンジニアリングの基礎(オプトロニクス社、東京、2005)