光学設計ノーツ 31(ver.1.0)
部分的コヒーレント結像の考え方 1
為されているかを考えることは、例えば面積的に広がりを持つ結像を扱う場合には非常に重要とな
る。近隣の点像同士の干渉を考慮せねばならないからだ。 これまで考えてきた様に基本的な波
動光学理論では、完全な単色光、あるいは完全な点光源を想定したり、(これは完全なコヒーレント
な設定であるが)、これ等の光波が完全に位相関係を保ち像面に達するか、あるいはまったく位相
的に無秩序に達するかどちらかの完全にコヒーレントな、あるいはインコヒーレントな両極端の状態
を、瞬間的強度などという実際には測定のしようの無い量を用いて表現する。言わば端正な世界で
ある。しかし、本来はこうした完全な状態の光の場は存在せず、その中間の状態をとる。この様なよ
り一般的な状態を部分的コヒーレントな状態と呼ぶ。部分的コヒーレントな状態は、斯様に必ずある
程度の大きさをもった光源、ある程度広がりをもった波長域における光波を対象にし、実際に測定
にかかる物理量を基にして考察されることとなる。以下は重に参考文献1)に沿って解説させていた
だく。
1.
1にあるように大きさを持つ非単色光源により照明される遮光面上のピンホール Q1
Q2、そして観測点 Qを考える。
ここで、光波を場所と時間の波動の関数
V
(
Q
1
,t
)
V
(
Q
2,
t
)と表すと、Q における光波の強
度は、時間平均を考えると、観測時間を
T
として
 
TdtttQVKttQVK
T
QI 0
2
222111 ,,
1
-(1)
となる。Q1,2 から Qに至るに時間 t1,2 により位相がそれぞれ変化し、振幅(位相変化も含む)
も変化することが K1,2 により表現される。Q1Q,Q2Qの距離をそれぞれ
s
1,
s
2とすると
c
s
t
c
s
t2
2
1
1,
である。
K
K
2はピンホールから Qまでの伝播距離
s
1,
s
2に反比例し、Q1,Q2への光波の
入射、射出条件に依存する係数である。Q1,Q2からの回折光を考えれば、一次波面と位相が
1/4 周期異なるため3)P102
K
K
2は純虚数となる。
V
(
Q
1
,t
)
V
(
Q
2,
t
)をそれぞれ
V
1(t),
V
2(t)と表して、時間平均を<>で表現すると、



222111222111 ttVKttVKttVKttVKQI
 
2
2222
2
1111 ttVKKttVKK


112212221121 ttVttVKKttVttVKK (2)
定常的1な場を仮定すれば、時間平均をとっているので、時間原点の取り方に依存せず
 
1
2
1
2
11 ItVttV

2
2
21 IttV 3
(2)式右辺のその他の項についても同様であって、2)式は

tVtttVKKIKIKQI
2121212
2
21
2
1Re2 4
と表現できる2Q1において振動が Q2と比べ、
t
2-
t
1分だけ遅れていると考えることが出来
1 集合における平均が時間原点に依存しない性質。
2 複素振幅
u
1
a
+
bi
u
2
c
+
di
で表わされる 2 光波の点 P における瞬間的な時間
におけ
る強度
I
P
)を考えれば

2
21 uutIP 2
dicbia
22 dbca
bdacdcba 2
2222


dicbiauu Re2
2
2
2
1

21
2
2
2
1Re2 uuuu
る。(3)式は伝播による振幅、位相変化係数 K1,2 を含んでいないので、ピンホール Q1,Q2
おける強度を表している。また(4)式右辺第一項と第二項はそれぞれピンホール Q1,Q2
らの光波が別々に Q に影響を及ぼす強度であり、



222
2
111
)1( ,IKKQIIKKQI
と表そう。
ある瞬間に、
V
1(
t
)、
V
2(
t
)間の位相関係がランダムであれば、時間平均の結果、(4)
式第三項は消えてしまう。これはインコヒーレントな状態に当たる。もし、
V
1(
t
)
V
2(
t
)間
に何らかの位相関係(相関が)が存在すれば、単純な2光源によるインコヒーレント和は
成立しなくなり、より複雑な扱いが必要になる。この考え方がコヒーレンシーを扱う場合
の基本となる。この(4)式第三項はコヒーレンス計算を行う場合に重要な役割を演じる。
そこで、
12 tt と置いて、

tVtV
2112
-(5)
を、相互コヒーレンス度(mutual coherence)として定義する。二つの光波
V
1(
t
)
V
2(
t
)
の波動としての類似性を、二つの波動間に、時間差 τ を与えた場合の、二つの関数の相関
関数で表現していることになる。(5)式を用いて(4)式を表現すれば、また、
c
s
c
s12
であるから、

c
ss
KKIKIKQI 12
12212
2
21
2
1Re2 6
となる。さらに二つのピンホールが一致する場合を考えれば

tVtV
1111
7
なる、自己可干渉度が定義できる。時間的なコヒーレンスを表現できる。もし、時間差が
0であれば、(3)式の通り、

11111 0ItVtV 8
となり、単にピンホール上の強度を表すことになる。ここで、これ等の値を用い

 
21
12
2211
12
12 00 II
- (9)
相互コヒーレンスを正規化した複素コヒーレンス度(complex degree of coherence)を定義
する。すると、(9)式より(6)式は









c
ss
QIQIQIQIQI 12
12
2121 Re2
10
と表現できる。この式は一般的な状態におけるコヒーレンスを考慮する際の基本となる式
である。また、この(10)式から複素コヒーレンス度の実数部は実験的に測定できる。図 1
において
c
ss 12
なる点 Q で、Q1,Q2 を単独で開いた時の強度、そして双方開いた時の強度を測定すれば(10)
式から






QIQI
QIQIQI
21
21
12 2
Re
11
と値が得られる。相互コヒーレンス度については、ピンホールにおけるそれぞれの強度を
測り、
 




QIQI
QIQIQI
IIII 21
21
21122112 2
ReRe
12
として計算できる。
2. 参考文献
1) M.Born & E.Wolf : 光学の原理Ⅰ、第 7草川徹訳(東海大学出版会,2005)
2) 小瀬輝次:フーリエ結像論(共立出版社、東京、1979)
3) 牛山善太:波動光学エンジニアリングの基礎(オプトロニクス社、東京、2005)