光学設計ノーツ 32(ver.1.0)
部分的コヒーレント結像の考え方 2
準単色光
前回から引き続き部分的なコヒーレンシーの扱いについて考える。
光学設計においては点光源から発した、純粋に単一波長の光波(光波が途切れず常に一定
の波長の波が放射され続ける場合を表す。波長が一定でも、放射がとぎれとぎれであったりすれば、
それは周波数解析的に考えればいろいろな周波数の波動が含まれていることになる。)の振る舞
いを考えるわけであるが、これは明らかにコヒーレントな光波の扱いである。
そして、それら点光源が多数集まり像を形成すると考えて良いのであるが、光学設計の多くの
場合には、これ等の点光源、点像に関しては互い放射光に関して、その位相的には相関が無く、
無秩序に発光し、互いに干渉しない、干渉縞など生成しない、と考えるインコヒーレントな物体面を
想定する。また、実際にその様な被写体が多く存在するわけである。
しかし良く考えてみると、光源内の 2 つの点光源同士の位相が一致しなくとも、それぞれから
完全に単色の光波が出ていれば、波連は無限に続くわけであるから隣接光源同士の光波の位相
関係は一定となり、観測に際しての時間平均をとっても、ヤングの干渉実験の如くに干渉が観測で
きることになる。実際のインコヒーレント光源においては周波数幅をある程度もっていたり、波が断
続的に放射されたりしてこうしたことは起こらない。いずれにしても上述の通り、ある微小な周波数
帯域、波長幅を想定しないとインコヒーレントな光源というものが成立しない。
そこで、“極微小な波長幅で色々な波がある程度混在している”、とすれば様々な組み合わせ
で若干波長が異なろうとも狭義の干渉が起こるのであるが、これ等の干渉状態は、波長が僅かにで
も異なるので時間とともに変化し、時間平均の観測を経れば(広義の)これらによる干渉縞は現れ
ないことになる。また同一波長の光波同士も、初期の位相関係が波長ごとにランダムに異なればそ
れぞれ異なる位置にランダムに干渉縞が生成され、それら無数の縞が重なり合い干渉は観察でき
ない。
また、上述の点対点の光源-像の関係を考えるときには、波長域が非常に狭いとすれば、こ
れまで考えてきたコヒーレント結像の理屈が成り立つような都合の良い光波が想定出来れば良い。
これを準単色光と呼ぶ。以下、この準単色光について、そしてそこから得られる部分的コヒーレント
結像の表現について考えよう。
1. 準単色光
ヤングの干渉実験系において、スリット間隔を
、スリット面とスクリーン面との間
隔を
D
とし、スクリーン座標に、スリットの長さの方向と直交する方向に
X
座標を取る。
これらのスリットを各周波数 ω の単色光で照明した場合に、光速を
v
としてスクリーン上
では、3)P88(4)式
vD
dX
KI
cos1 (K:比例定数) -(1)
なる、干渉縞の強度分布が得られる。ここでもし、照明光が単色ではなく、波長の幅を持
った、この幅内で様々な振動数を持つ光波であると考へ、その周波数分布を
E
(ω)とすれば、
既述の通り時間の変化とともに干渉縞は固定されず、周波数の異なる光波の干渉は観測し
得ない1ので(この場合には両スリットにおいては各波長の位相は等しく、空間的にはコヒ
ーレントなので、波長幅の中の同一波長の干渉縞は中心波長の近傍に残る。Q点におけ
る合成強度は、周波数については強度和となり、以下の関係が成り立つ。

d
vD
dX
EKI cos1 (2)
ここで、中心周波数を ω0として周波数を ω=ω0-ν として表せば、
E
(ω)=
E
(ν)と置
けて(2)式は、
 
d
vD
dX
EKI 0
cos1
 
d
vD
dX
iEK 0
expRe1
 
d
vD
dX
iE
vD
dX
idEK expexpRe 0 -(3)
1 ヤングの干渉縞を含め、ここら辺の干渉の細かい検討はまた別の項目で記させていただきたい。
波長幅の関数
E
(ν)の幅が狭く、ω0を中心とした遇関数とみなせるとすれば、そのフーリ
エ変換は実数となる。従って、
 
d
vD
dX
iEdEI
exp
max
 
d
vD
dX
iEdEI
exp
min
となり、コントラストの定義式より、


dE
d
vD
dX
iE
M
exp
(4)
となる。ここでもし(4)式に於いて、
1
vD
dX (5)
が常に成り立てば、すなわち、
X
を中心波長の第 1の干渉縞の極大値位置とする時、
n
を屈
折率とし干渉縞の周期は3)P886)式
dn
D
X
0
0
(6)
である。これを(5)式に代入して
1
000
0
0

vnDv
dX (7)
なる条件が満たされ、周波数幅が中心周波数と比べ十分に小さい時、(4)式に於いて
M
≈1
(コントラストが 1)と考えることが出来る。ここでさらに、(3)式を辺々を

dE
割って、
0
cos1
vD
dX
KI
となり、(1)式と、比例定数以外は同じになり、中心角周波数 ω0についてのみ波動を記述
すれば良いことが理解できる。この様な条件下の光を準単色光(quasi monochromatic
light)と呼ぶ。
ここで上記の光波 Vを単色光では無く、上記、準単色光の様にある周波数の範囲の光
波の合成として存在しているとして、
  


dtiEtV 0111 2exp (8)
と表現する(これを解析信号 1)と呼ぶ)∆ν を周波数幅とする時、もし、光路差cτ がコ
ヒーレンス長 c/∆ν よりも十分に短い程に τ が小さい値であれば、積分中 ν
t
変化に比
ντ はあまりその値を変えないので積分外に出し、これまでの検討の通り、中心周波数
ν0を用いて本連載 31 (5)式は
 

 


dtiEdtiEi 022
011012 2exp2exp2exp
とできる。従って、
 
12012021012 2exp02exp2exp JiitVtVi

(9)
(9)式における
 
211212 ,0 QQJJ
を相互強度(mutual intensity)という。相互強
度を用いると本連載 31 (4)式は、

120212
2
21
2
12expRe2 JiKKIKIKQI

-(10)
となる。
J
12 と同様に

2222211111 0,0 IJIJ
と定義できて、相互強度
221121 JJII で割り、正規化した、
2211
12
12 JJ
J
11
を複素コヒーレンス度(complex degree of coherence)と言い、その絶対値をコヒー
レンス度(degree of coherence)と呼ぶ。よって、さらに(10)式は、各スリット単独
Qでの強度を
I
Q
1,
I
Q
2と表して

1202121 2expRe2

iIIIIQI QQQQ
或いは


012122121 2argcos2 QQQQ IIIIQI (12)
と表現することが出来る。 0
12
の時、
21 QQ IIQI
であり、Qにおいて強度は、Q1
Q2それぞれからの強度の単純な和になる。これをインコヒーレントな状態と言う。 1
12
の時には、
 
020112
arg
であって、Qにおいての強度は、Q1Qからの光波の
Qにおける振幅の和の絶対値の 2乗であることが分かる。これをコヒーレントな状態と呼
び、この中間の状態を部分的コヒーレント(partial coherent)な状態と呼ぶ。
2. 参考文献
1) M.Born & E.Wolf : 光学の原理Ⅰ、第 7草川徹訳(東海大学出版会,2005)
2) 小瀬輝次:フーリエ結像論(共立出版社、東京、1979)
3) 牛山善太:波動光学エンジニアリングの基礎(オプトロニクス社、東京、2005)