光学設計ノーツ 34(ver.1.0)
部分的コヒーレント結像の考え方 4
Hopkins の公式について
今回は前回における式を用いてコヒーレントに照明され得る領域、また均一空間にお
いて考えられたファン・シッター-ツェルニケの式を、様々な伝播状態の想定出来る表現
へと拡張する。
1. コヒーレントに照明される領域
ここで、光源 Σ が光軸を中心とする半径 ρ、面積 S の一様なインコヒーレントに発光
する円盤であるとすれば、光源から軸上距離
Z
離れた平面上の点 Q1’(
X’
1,
Y’
1)Q2’ (
X’
2,
Y’
2)
における複素コヒーレンス度 μ12 は光源強度のフーリエ変換の形として本連載 33 (16)
1


SSSSS
SSSSSSS
dydxyxI
dydxy
Z
YY
x
Z
XX
ikyxIik
,
exp,exp
2121
12
3316
からベッセル関数を用いて、

i
v
vJ exp
21
12
(1)
と表せる。この結果は均一な射出瞳上の振幅分布の齎す回折像振幅分布と同じになるので、
1 光源から原稿面までの光軸沿いの距離を以降、Dから
Z
に改めた。
円形開口の場合のフラウンホーファー回折像の計算結果2

z
kz
k
J
AU


1
2
2
(2)
を利用している。(参考文献 3P13625)式において
D
=2ρと置き換えた。)正規化に
より像面上の X’,Y’座標に無関係な係数は消える。この時(1)式に於いて
は準単色光の波
長平均値である。本連載 32 回参照)
21
2QQ
Z
v
(3)
(1)式、33 回-14)式における積分外項の位相については、もともと本連載 33 (15)式、
SS yYYxXX
Z
YXYX
Z
LL 2121
2
2
2
2
2
1
2
121
1
2
1
(33-15)
における右辺第一項をφと表し、積分外に出したものであるから、


Z
YXYX
2
22
2
2
2
2
2
1
2
1
(4)
である。ψ は点光源 Sを座標原点においた時の位相差
21
2QSQS
を表している。
し物体面上の2点の距離が、光源面―物体面間の距離に比し十分に小さく、

21 QSQS であれば

1exp
iと出来て、 (1)式より複素コヒーレンス度は v=0
ピーク値 μ12=1をとる。v=1 の時は、(1)式において μ120.88 となる。12%程度のコヒ
ーレンス度の落ちは一般的には目立たないものなので、大掴みにこの値をコヒーレントの
許容量とすれば、(3)式より
2 ωは回転対称なフラウンホーファー回折像におけるその中心からの距離

ZZ
QQ 16.0
2
21
(5)
Ztan なる見込み半角の円盤状光源によりコヒーレントに照明され得る2点 Q1
Q2の最大距離(円形領域の直径)ωmax (5)式より、
16.0
max (6)
と考えることが出来る。
2. Hopkins の公式
(33-16)式は、光源と原稿面間の媒質は均一であると仮定して導かれた。そこで、媒質
が不均一であったり、レンズ等が存在して幾つかの異なる屈折率の層から出来ている場合
にも適用できる様にこの(33-16)式を一般化しよう。
8.1.3で考えたように面積 σ の光源 Σ が波長に比べても十分に小さい
個の微
小光源素 Smから出来ているとする。そしてこの微小光源内に点光源 S(2次波元)を考え、
この点光源が、そこから単位距離において単位強度、初期位相0を持つと仮定した場合に、
この点光源の影響による原稿面上の点 Q’の複素振幅を、光源―原稿間の任意のタイプの媒
質の透過関数
K
S,Q’,ν)と定義する。この様な関数を想定すれば、∑、原稿面間のより
一般的な空間の屈折率の分布にも対応出来る。本連載前回33回の(2)式においては均一な
媒質を想定しこの関数に光源から放射される球面波を当て嵌めた訳である。
今回の場合に、もし媒質が均一であると考えれば、2次波元からの球面波の伝播が考え
られ S,Q’を結ぶ直線と微小面積 Smの法線のなす角度はあまり大きくないと仮定した場合の
フレネル-キルヒホッフの回折積分の帰結、本連載 27 (1)
 
d
s
iks
yxg
i
PU 
exp
,00 (271)
から、sZに置き換えて( k,
は波長同様、準単色光における平均値である。

Zki
Z
i
QSK exp,,
である。この様な場合における整合性も考慮し

Z
Zki
QSKi exp
,,
7
と言う形にして本連載 33 (7)式に入れ込めば
 
dSQSKQSKSIQQJ
,,,,, 2
*
1
2
2112
(8)
と表現できる。また、本連載 32 (11)式より Q1Q2における強度を利用して

 
dSQSKQSKSI
QIQI
QQ
,,,,, 2
*
1
21
2
2112
(9)
とも出来る。さらに

jj QSUSIQSKi
,,,
(10)
と置いて、透過関数として、微小実光源からの光波の伝播式に光源の振幅まで含めてしま
えば(8)(9)式はそれぞれ

dSQSUQSUQQJ 2
*
12112 ,,,
(11)

 
dSQSUQSU
QIQI
QQ 2
*
1
21
2112 ,,
1
,
(12)
と言う簡潔な形になる。これらの式を HopkinsH.H.Hopkins)の公式と呼ぶ。ある光源
部分から齎される、注目する原稿面上の 2Q’1Q’2 それぞれにおける複素振幅値から複
素コヒーレンス度を得ることができる。
ここで、上記原稿面 Aの後ろにさらなる物体面 Bを想定し、この面上の点 Pi を考えれば(
1)それらの点における透過関数はこれらの点における複素振幅場を考えれば良いわけであ
るから、Q’i から Pi までの透過関数を用いて

iiiii dQPQKQSKPsK
,,,,,,
(13)
と表せる。また(8)式と同様に考えて
 
dSPSKPSKSIPPJ
,,,,, 2
*
1
2
2112
(14)


2122
*
2
*
111
2,,,,,,,, QdQdSdPQKQSKPQKQSKSI
(8)式から


2122
*
1121122112 ,,,,,, QdQdPQKPQKQQJPPJ
(15)
となり、A,B 面上の各点間の透過関数が分かれば相互強度の伝播を計算することが出来る。
結像を、光源から原稿、光学系、像面と通じて総合的に表現するためには重要な関係であ
る。
3. 参考文献
1) M.Born & E.Wolf : 光学の原理Ⅲ、第 7川徹訳(東海大学出版会,2005)
2) 小瀬輝次:フーリエ結像論(共立出版社、東京、1979)
3) 牛山善太:波動光学エンジニアリングの基礎(オプトロニクス社、東京、2005)
4)Emil Wolf Introduction to the Theory of Coherence and Polarization of Light
(Cambridge University Press,Cambridge,2007)