光学設計ノーツ 35 (ver,1.0)
部分的コヒーレント結像の考え方
コヒーレントな領域、照明系の収差の結像への影響
今回も部分的にコヒーレントな照明、結像について考えさせていただきたい。
今回は光源と被照明面の間に照明光学系が存在する場合の、より照明系としては一般的な状態を
扱う。照明光学系の収差の影響についても言及する。
これまで暫くの間、解説させて頂いてきた部分的なコヒーレント結像論には一般的な光学
計的理論とは趣が異なり、確かに取り付きにくい面もあるが、式間のコメント等も増やしてより
ご理解いたたき易い様に心がけた。エンジニアリングにおいては、わかり易い説明、秩序立てと
いうものは本質的に重要なものである。
1.照明光学系によるコヒーレント照明、インコヒーレント照明
図1にある様に光軸に対して回転対称な系を考える。
本連 載前
回と同じように半径ρの円盤光源Σの半径ρの像Σが光学系 Lにより得られている。この時、
開口絞り面上の点を通過する光線の、入射瞳、射出瞳座標上における対応点を P1P’1、そして
もう一組 P2,P’2とする。
まず、光源面から入射瞳面について考えると、前回()式、(そして前回図1)から

21 QSQS (1)
の様な状況であれば exp(iφ)=1 と考えられてファン・シッター-ツェルニケの定理より得られ
る前回(1)式より

v
vJ
PP 2
,2112
(2)
である。この時、中心から光源への見込み半角αを用いれば、P1P2の間隔を dとして前回
(3)式より、
sin
2
0
d
n
v (3)
である。物界の屈折率をnを用いて真空中の中心波長 0
を用いて表記してある。
さらに、入射瞳、射出瞳間のコヒーレンスの関係について考えれば、前回と同様の透過関数
を導入して、
jjj PSUKPSU ,,
j=1,2 (4)
とすれば、入射瞳、射出瞳上の強度には以下の関係があるので、

dSPSUPI
2
11 ,
1
2
1
2
1
2
1,PIKdSPSUK
(5)
である。
ここで、前回(12)Hopkins の公式はこの場合、
  
dSPSUPSU
PIPI
PP
21
21
2112 ,,
1
,
(6)
と表せる。従って(4)(5)式の関係より、
   
dSPSUPSU
PIPI
KK
KK
PP
21
21
21
21
2112 ,,
1
,
さらに(6)式右辺後半は Hopkins の公式によればμ12(P1,P2)であるし、右辺の最初の K項は透
過関数 K1の位相項の K2の位相共役項との積であるから、φ、φがそれぞれ K1,K2の位相を
表すとして、

211221 ,exp PPi
(7)
となる。
ここで、さらに屈折率 n’の均一な媒質に満たされた射出瞳から光源共役像までの空間
において(3)式に対応する量、
sin
2
0
d
n
v (8)
を考える。
さて、光軸近傍の近軸領域では、光学系の境界面を挟んで、その前後の屈折率 n,n’、物体高、
像高 y,yそして軸上の物点から光軸との角度 Uを為して出発した光線が、光軸上像点に達する
時の光軸との為す角度を U’とする時、
UYnnYU
(9)
なる量、ヘルムホルツラグランジュ(Heimholtz-Lagrange)の不変量が保存される。この
変量は複数の境界面を持つ光学系においても順次引き継がれ、第一面と最終面との間でも保存さ
れる。ここでの検討においては入射瞳、絞り、射出瞳が順次、共役関係にあるので瞳上 P1,P2
に対してもそれぞれ保存され、近軸領域では
dndn
(10)
なので、(8)式より
vv
(11)
よって、(2)(7)式より像界の値を主に用いて


21
1
2112 exp
2
,
i
v
vJ
PP (12)
として射出瞳上の複素コヒーレンス度は表現できる。
ここで、前回既述と同様に v=1 の場合をコヒーレントの限界、
88.0
(13)
と考えて、(8)式より、
sin
16.0 0
n
d (14)
また、像面上のこの光学系による点光源像におけるエアリーディスク半径を r’Aとすれば
(領域の目安として導入)
sin
61.0 0
n
rA (15)
となる。なお像側の開口数(NA)は
sinnNAimg (16)
である。よって、(14)式と(15)式を組み合わせて
A
rd
sin
sin
26.0 (17)
と表現出来る。ここで、コヒーレントな条件をさらに簡潔に表すために、射出瞳径、光源像径と、
それらの間隔 Z’の関係が近軸量として扱える場合には、或いは正弦条件が成立している場合に
(17)式は、
を射出瞳半径として、
A
Ar
pr
Z
Z
p
d26.026.0 (18)
と表せる。d’>>2
p’
となりコヒーレント領域が瞳上全域を占める場合には、射出瞳全面がコヒー
レントな状態になる。この時の条件(18)式より以下の如くに表現できる。
A
r
13.0
(19)
また、
A
r

13.0
(20)
の場合には、d’<<2
であり、射出瞳面内のコヒーレント領域は他の光波の透過領域に比べ微
であり、射出瞳はインコヒーレントな状態にあると考えられる。
2. インコヒーレントな射出瞳照明における照明光学系収差の影響
このインコヒーレントな射出瞳の状態は、像面上の 2Q’’1Q’’2を考えるとき、本連載 33
回で考えた(33 回図1参照)状態、インコヒーレントな面光源を前提とした場合と同様であり
(32-11)(33-7)(33-8)式(或いは(33-9)式)において Q’1Q’2 Q’1Q’2SP’と置き換え
て複素コヒーレンス度μ12 が得られる。この場合の計算に必要となる、射出瞳上の点 P’における
強度 I(P’)P’に対応する入射瞳上の点の強度透過関数の絶対値を元に(5)式により計算される。
ここでの計算、入射瞳から射出瞳への光波の伝播の計算には光学系透過の際の位相変化(すなわ
ち波面収差)が含まれていないのでμ12 は光学系の収差に影響を受けない。
3. 参考文献
1) M.Born&E.Wolf:光学の原理Ⅲ、第 7 版/草川徹訳(東海大学出版会、東京、2005)
2) 小瀬輝次:フーリエ結像論(共立出版社、東京、1979)
3) 牛山善太:波動光学エンジニアリングの基礎(オプトロニクス社、東京、2005)