光学設計ノーツ 38 (ver,1.0)
部分的コヒーレント結像の考え方
部分的コヒーレント光学系の結像式について
これまで扱ってきた部分的なコヒーレンシーの概念を導入する事により、より一般的
な結像の表現、定式化が可能となる。ここではその重要な表現手段について解説させてい
ただく。
結像の定式化
図1のような結像系を考える。左からインコヒーレントな一次光源面 S:座標(
x
s
,y
s
)
透過物体面:(
X’
,
Y’
)、結像光学系入射瞳面、射出瞳面:(
x,y
)、像面:
X,Y
)である。
ここで、光源面と物体面のコヒーレンス度の間にはファン・シッター-ツェルニケの
定理によりフーリエ変換の関係があり、フーリエ変換内の指数関数は、2平面の距離を
D
,
物体面上の2点間の距離を∆
X’
、∆
Y’
として本連載 33 (16)式より


DyYxXi SS
/2exp
また、物体面上の透過振幅分布と、入射瞳面上の振幅分布の間にもフーリエ変換が成立し
ていて、
R’
をこれらの軸上面間隔とすれば、フーリエ変換内の指数関数は


RYyXxi
/2exp
となる。さらに、射出瞳と像面の間にもフーリエ変換の関係が成り立ち、フーリエ変換内
の指数関数は
R
をこれらの面の軸上面間隔とすれば、本連載 27 回(14)式より


RyYxXi
/2exp
(1)
となる(本連載 28 回(12)式)。ここで、以降の計算上の利便性から、(
x,y
)以外の座標を以
下のように変換する。
’ =
x
s
R’/D
y’
=
y
s
R’/D
X’
D
=
X’
/(
λR’
)
Y’
D
=
Y’
/(
λR’
) -(2)
X
D
=
X
/(
λR
)
Y
D
=
Y
/(
λR
)
この様なスケーリングにより上述の3つの指数関数はそれぞれ、以下の如くになる。
DD YyXxi
2exp
DD yYxXi
2exp 3

DD yYxXi
2exp
ここで、物体の振幅透過率分布を
O
X
D
’,
Y
D
)とし、また、インコヒーレントな光源
面上の微小面積素
dS
m
による、物体面上の振幅分布
A
は、この
dS
m
の座標と、物体面上の
観測点の座標により表現され得るので
DDmm YXyxA ,,,
と表す。従って、照明系の影響も含めた物体面上の振幅分布は
DDDDmm YXOYXyxA ,,,,
として表される。また、結像レンズの点像振幅分布を ASF(
X,Y
)と記す。そしてさらに全系
を通じて考察されるべき、像面上の振幅分布を
V
X
D
,
Y
D
とし、アイソプラナティズムを
想定すれば
V
は物体面上の振幅分布に、光学系の点像振幅分布をコンボリュートすること
により得られ、さらに、インコヒーレントな多数の光源素影響を合計すると、(2)式の座標
変換により
X’
D
,Y’
D
)と(
X
D
,Y
D
に関しては等倍率の場合と同様の表現になるように設定
されていている。また、物体面上の任意の位置 Q’の座標
X’
D
1,
Y’
D1
を積分変数と考え、
像面上の点(
X
D
1,
Y
D1
)における振幅分布は、


mDDDDDDDDDDmmDD dYdXYYXXASFYXOYXyxAYXV 1111111111111 ,,,,,
4.A
また、物体面上の任意の位置 Q’2の座標
X’
D
2,
Y’
D2
を、新たな積分変数としたまったく同
様の式を像面上の点(
X
D2
,
Y
D2
)に考えれば、


mDDDDDDDDDDmmDD dYdXYYXXASFYXOYXyxAYXV 2222222222222 ,,,,,,
4.B
と表現できる。このときこれらの二つの関数の表す振幅分布の相互強度(本連載 32 (9)
式)を事務的に考えると、まったくそれぞれ独立した積分であるから、積分内で積の形に
できて、

22211112 ,,, DDDDDD YXVYXVYXJ
 
22112211 ,,,,,,,, DDDD
mn DDnnDDmm YXOYXOYXyxAYXyxA
212122221111 ,, DDDDDDDDDDDD dYdYdXdXYYXXASFYYXXASF
5
となる。時間平均の項に於いては上述したように
の場合のみ値を持つ。この項に
ついてさらに光源を連続化して考えると、前節と同様にして、
mDDmmDDmm YXyxAYXyxA 2211 ,,,,,,
ydxdYXyxAYXyxA
SDDDD

2211 ,,,,,,
221112 ,,, DDDD YXYXJ 6
これは、物点 Q1Q2における相互強度を表している。インコヒーレント光源であるから、
それぞれの光源部からの相互強度の加え合わせで、総合的な相互強度を得ることが出来る。
(6)式の関係を用いて、5)式は、


221122111212 ,,,,,, DDDDDDDDDD YXOYXOYXYXJYXJ
212122221111 ,, DDDDDDDDDDDD dYdYdXdXYYXXASFYYXXASF
7
となる。 (7)式は照明系を含む結像系全体の働きを波動光学的に、一般的に表現する重要な
式である。7)式における原稿面上の相互強度の部分に、(7)式の計算結果を用い、さらに
(4.A,B式を用いれば、像面上分布を新たな物体面振幅分布と看做しこの光学系の後に
続く光学系の結像に対しても、計算を続けられる形となる。
ここで、
X
D
1,
Y
D1
)と(
X
D2
,
Y
D2
を同一の像面上の点
X
D
,Y
D
とすれば、(7)式は


221122111212 ,,,,,, DDDDDDDDDD YXOYXOYXYXJYXJ
21212211 ,, DDDDDDDDDDDD dYdYdXdXYYXXASFYYXXASF
(8)
となり、一点(
X
D
,Y
D
)の相互強度を考えている訳であるから

DDDD YXIYXJ ,,
12
と、(8)式は強度そのものを表す事になる(本連載 31 回(8)式)
2. 参考文献
1) M.Born&E.Wolf:光学の原理Ⅲ、第 7 版/草川徹訳(東海大学出版会、東京、2005)
2) 小瀬輝次:フーリエ結像論(共立出版社、東京、1979)
3) 牛山善太:波動光学エンジニアリングの基礎(オプトロニクス社、東京、2005)