光学設計ノーツ 44(aver.1.0)
結像系、光束の切り口における照度
今回は、微小な光源から出た光が結像光学系を通過し結像している場合に、光学系通
過中の光束の切り口においての照度分布について考える。また、光学設計・評価における
完全拡散光源の取り扱いについても考察したい。
1. 光束切り口における照度
まず、正弦条件を満たし、球面収差を持たない光学系による照明系を想定しよう(1
光学系に無限遠点光源からの平行光線が入射するとする。球面収差が無ければ光線
はすべて焦点位置に収束することになる。主面は焦点を中心とする球面状になる。それぞ
れの光線は、前側主(平)面入射時の光軸からの高さを保って、後側主面(この場合球面)
から射出し、一点に収束する。
正弦条件とは、本連載で度々触れさせていただいてきたが1)
球面収差が除去されて
いる時に、その近傍のコマ収差が除去されるための条件である。適度に収差補正されてい
る光学系においてはある程度は満たされている条件と考えてよい。図 1 にある様に、近軸
理論では平面であった主平面が、物点、或いは像点を中心とする球面となる。
さて、ここで、図1の光学系をそのまま引っ繰り返し、図2にある様に、焦点位置
にある非常に微小な面光源から、光線が発生し光学系に入射、そしてそれぞれ殆ど平行光
となって光学系から射出する場合を考えよう。
今度は、それぞれの光線は、前側主面入射時(球面)の光軸からの高さを保って、
後側主面(この場合主平面)から光軸に平行に射出する。
さらに、光源としては完全拡散面光源を考えて、この光束の主平面近傍での断面上の
照度分布を計算してみよう。
すると、図3にある様に、H1上のリング状の帯面積に対しては、帯の光軸からの高さ
h
sinfh (1)
であるので、帯面積はこの
h
を半径とする円の円周に、帯の幅
fd
θを乗じたものとなる。
rad とは半径 1の円の、その角度が切り出すこの長さに等しい。)従ってこの帯に張られ
る立体角
Ωは、
2
/sin)(2 fffdd
(2)
となる。この帯の方向からは光源を角度θで見込むことになるので、微小光源面積をds
とすれば、帯からの見かけの光源の面積は
ds
×
cosθとして、微小角度幅
θを持つ立体
角内に放射されるエネルギー
φは、輝度Bを用いて
2
/cossin)(2 fdsffdBd
(3)
である。
また、H2上で、
φに含まれるのと同じ光線が形成するリング面積
d
s’は、H2上での
二つの円の大きさ(高さ)の差は、

sinsin fdf
(4)
なので、

sin2sinsin' ffdfdS

2
sin2sinsin fd
5)
従って、H2帯上の照度を考えれば(3)(5)式より、

df
d
d
dsBd
Sd
d
2
sinsin
sin2
cossin2
(6)
(6)式右辺分母の中括弧の中は、limdθ→0)とすれば、sinθの導関数、cosθになる
ので
2
f
Bds
Sd
d
(7)
となる。よって、この微小幅を持ったリング上の照度は角度θの変化については定数とな
り、H2上の照度分布は一定となることが分かる。ただし、完全拡散面光源を仮定している
ところに注意を要する。完全拡散面を仮定すれば、出力されるビームの断面上における照
度分布は均一になる。
因みに、微小面光源が等方的に発光しているとして、単位面積あたりから単位立体
角あたりに放射される放射束を等しく
I
として、(3)式を
I
で置き換えて
2
/sin)(2 fdsffdId
(8)
(6)式の分母には変わりは無いので

df
d
d
dsId
Sd
d
2
sinsin
sin2
sin2
2
cos f
Ids
(9)
となり、ビーム断面においてはθに依存する照度分布が発生することになる。極端にθが
大きい場合には(9)式右辺は発散してしまう。これは、面光源の強度分布が等方的であると
いう設定に矛盾があるからであり、面光源が点光源になる、つまり
ds
→0 となることによ
り解消される。
結像光学系を考える場合にも、その集光能力を現す F ナンバーは、画面中央の照度の
比を示すものであり、微小面積が基本となる。また、F ナンバーを計算する場合でも、入力
光束は均一な照度分布を持つと考えるのが、汎用的である。光線は可逆であるので、その
様な平行光束を齎すのが完全拡散面光源であると考えることも出来る。従って、光学設計
においては完全拡散原稿の仮定が合理的である。
2. 完全拡散面の光学シミュレーションにおける考え方
完全拡散面の性質を振り返ってみれば、図 4 にある様に光のエネルギーは法線方向に
対する角度の cosθに比例して落ちていくので、光線の担うエネルギーも光源面法線からの
角度の余弦に比例して少なくなるべきである。
この時の光線とはエネルギーを運ぶ粒子(フォトン)の経路のごときものである。最終的
にこの粒子の個数が計測され明るさが計算される。
この考え方では、被写体が照明光源、或いは平面状のものであれば扱いは比較的シン
プルであるが、極一般的な写真における様な被写体を考える場合には、少々事態はややこ
しくなる。照明光源からの光を受ける2次光源の集合として被写体を考えることになるが、
それ故、原稿面の反射・拡散特性が当然、シミュレーションにおいては重要になる。細か
く被写体の性質ごと、角度ごとに光線の weight、つまりフォトンの持つエネルギーが決定
されなければならない。反射率が高ければ、鏡面的に作用するであろうし、この反射率に
応じて光沢のある面も表現されるわけである。しかし、一般的には、拡散性が高く、完全
拡散面として評価できる被写体の割合も多いであろうとの予測も出来る。その時には、上
述の様に、被写体面素法線と光学系光軸のなす角度θに従って(つまり物体の形状に従っ
て)光線の weight cosθが乗じられなければならない。つまり、完全拡散面の均一な
明下の空間では、被写体の形状に応じて、様々な weight を持つ光線、エネルギーを持つフ
ォトンが存在することになる。完全拡散を前提としても、均一な weight の光線ばかりを想
定してはならない。勿論、鏡面であるとか、光沢のある被写体が存在する場合には、その
面素と一次光源の位置関係等も考慮した細かい光線の角度と関係した weight づけが必要で
あるが、より計算が簡潔であるはずの、また圧倒的に多く存在を仮定されるであろう完全
拡散面の場合にこうした複雑さが発生することになる。
乱数を用いて光線を発生させるモンテカルロ法を用いれば、この場合でも光線の
weight は全て均一に出来る。しかし、光線発生の角度基準軸は面素に直交したものを採用
しなければならないので、いずれにしても煩雑である。
それでは、光線を、輝度を示すベクトルの様なものと捕らえたらどうであろうか?完
全拡散面からはどの方向にも均一な輝度が観測されるので、同一の領域からの光線は全て
同じ weight で良い。被写体面素の位置だけが分かればよいので、計算上これは都合の良い
手法である。しかし、光線をフォトン経路とした場合(以下フォトン法)との相違は、最
終的にこれらの光線を如何に集計するかにある。フォトン法では光線は単なるフォトンの
飛ぶ道筋なので、結局、画素に何本光線が到達したかと言う情報がそのまま明るさの情報
となる。例えば、1 ワットを担う光線が、ある画素に10本到達すれば 10 ワットの放射束
が直接計算できる。この値を画素面積
ds
で割れば照度が得られる。しかし輝度光線法の場
合には光線は輝度を現し、ワット/m2/ステラジアンなるディメンジョンを持っているので、
放射束・ワット
φを得るためには手続きが必要になる。光線が像面上の画素に到達する
ときに、代表している立体角
そして画素面と光線の為す角度δ等の情報がさらに必要
になって、
dSBdd
cos
(10)
となる。最終的には輝度
B
の多くの光線によって形成される立体角
Ω
についての(10)式の
積分、
dBdS
cos (11)
が計算されることとなる。従って照度
E
は、
dBE
cos (12)
となる。確かにこちらの処理も煩雑ではあるが、より一般的な被写体で画像シミュレーシ
ョンを行う場合、或いは撮影画像の画像処理を考える場合には、物界での再現を単純に行
える輝度光線法のメリットは大きい。
3.参考文献
1) 牛山善太:光学設計ノーツ第 17 回(オプティカルソリューションズ HP)
http://www.osc-japan.com/service/s05_17
2) 牛山善太:シミュレーション光学(東海大学出版、東京、2003)
3) M.F.Cohen,J.R.Wallace :Radiosity and Realistic Image Synthesis
(Morgan Kaufmann,San Francisco,1993)
4) R.McCluney:Introduction to Radiometry and Photometry
(Artech House,Norwood,1994)