ver.1.0)
収差展開式における収差の分類
今回は、収差の多項展開式に現われる収差項(前回では現れなかった)の内
容について検討し、光学系結像に存在する収差と言う混乱したものを出来るだけ
整理して考えてみよう。以下では前回の収差展開式が前提となっているので、
参照願いたい。
収差の展開式
像面上の理想像点からのズレ、収差はy、z方向それぞれに、瞳座標、
座標のべき級数展開関数として以下の如くに表現できる
-(1)
-(2)
上記、光線収差は物体位置、瞳座標の3次の項により表わされる範囲に限っ
たが、これらは収差を表す最低次の項であり、基本的な収差の性質を最も端的に
現す。3次収差と呼ばれる。また、cからcまでの光学系固有の5つの係数
に付随して収差が分類される。これらを、ザイデル(Seidel)の差と呼ぶ。
上式においては、前回(6)式における様に、さらに高次の項が連続し存在し
ていて、上記3次収差の場合と同様に、光線収差として5次の収差、7次の収差
を考えることができる。次数が増して加算されるごとに実際にスネルの法則によ
り光線追跡された実収差の値に近づくことになる。しかし、各項は複雑になり、
数も増え、見通しは悪くなる。
2. ザイデルの5つの3次収差
ここで、前回におけるのと同様に瞳に極座標を導入し、
参照球面半径
R
、そして前回(6)式における係数を含んだ定数を適当にそれぞ
B,C,D,E,F ば、(1)(2)式は、
-(3)
-(4)
と書ける。このとき、
と置いている。
2.1 球面収差
ここで、順を追ってそれぞれの係数の項が単独で表わす収差について考えて
行こう。まず、(3)(4)式において B 以外の係数が0の場合を考える。する
と、明らかに、
-(5)
これらの式からθを消去すれば
-(6)
瞳上の動径
を一定値として、θを0から2πまで変化させたとき像面上の光
線到着点の描く図形を収差曲線と呼ぶが、この場合は瞳上の高さ
の3乗に比例
する半径の円が、像面上に描かれることが(6)式より理解できる。絞りを開く
(瞳を通過する光線の r が大きくなることを意味するので)球面収差は急激に
増大する。また、物体高yに(5)式は影響を受けないので軸上(像面中央)
みに残存する収差である。
図2に光軸上の点光源の、光学系による、球面収差を伴う結像の光線追跡、照度
計算によるシミュレーションの結果を示す。本来、一点に再び集まるべき光が強
度中心を取り囲むように存在するフレアとなっている。
球面収差は物点が光軸上にある場合の収差であるので、もし収差を上記の如
く近軸像面上の z,y 方向(横収差)ではなく、x方向として光線が光軸を横切る
座標(スネルの屈折則により、入射光と屈折光は同一平面上に存在するので
軸と平行な場合以外は必ず交点は存在する)の近軸像点からの距離△X なる収差
(縦収差)に注目すれば、収差図形は回転対称であり、収差は瞳の光軸からの
高さ r の偶数次のみの関数となる。4次の項まで取れば、
42 rBBrx
と表せる。横収差では最低次数 3 次であったので、上式で扱う光線は横収差座
標では 3 次、5次の球面収差を表すことになる。
さて、これらの、瞳の一番周辺
のところから来る光線の収差を0と考えれ
ば、
0
42
hBBh
2
h
B
B
であるから
2
4
2
h
r
BBrx
である。この関数を光線通過高
で微分すると
2
3
42 h
r
BBr
r
x
2
2
212 h
r
Br
従って、△
x
は、微分値が 0 となる、
2
h
r
の位置(光束の約7割の幅のところ)で最大値をとる。
2.2 コマ収差
(3)(4)式において F 以外の係数が0の場合を考える。すると、
-(7)
―(8)
これらの式からθを消去すると
-(9)
すると、収差曲線は、理想像点からy軸方向に-2Fyrずれた位置に中心を持つ、
Fyr2の円となる(図3)。
左辺第2項から、理想像点から収差円中心までの距離が収差円半径の2倍にな
るために、様々なrの値に対応して、理想像点を中心とした60度の開きを持つ
2つの直線に接する様に、収差円が描かれる。この彗星状の形がコマ収差特有の
ものである。(9)式からも明らかな様にコマ収差はyが0でない場合、軸外結
像においてのみ存在する収差である。瞳上の高さ
2 乗に比例して収差図形の
円の半径が増大するので、球面収差ほどではないが、りを開くと急激にコマ収
差は増大する。
図4に3次コマ収差が顕著な光学系による、軸外点光源の結像のシミュレー
ション結果を示す。
2.3 非点収差と像面湾曲収差
(16)(17)式において C D 以外の係数が0の場合を考える。する
と、
-(10)
-(11)
これらの式からθを消去すると
-(12)
となり図5にある様に収差図形は理想像点を中心とし、頂点が Dy2r、(2C+D
y2r の楕円となる。
もし、(12)式において、C のみ0になるとすると、
-(13)
となり、収差図形は半径 Dy2r の円となる。瞳上の高さ(半径)と像面上の高さ(半
径)が比例すると言うことは、図1にもある通り光線はある一点に収束すること
意味しているが(前回、図4参照)この場合の収束点はガウス像面上には存在し
ていない。焦点ずれの収差図1と考え像面上で参照球面の移動量
dx
に対応
する焦点ずれの式
と比較することにより
-(14)
よって、収束点のずれ
dx
は物体高の2乗、すなわち一般的な場合像高の2乗に
比例するので、像面は図6にあるように回転方物面状になる。この様な平面から
の像面の湾曲を像面湾曲収差と呼ぶ。
さらに今度は、(10)(11)式にまで戻って、D のみ0になると考え
と、
-(15)
となり、収差図形は理想像点を中心とする、y軸に沿った長さ 4Cy2r の線分とな
る。
この事柄は、z方向、つまりサジタル方向には無収差であるがy方向、つまり
メリディオナル方向には焦点ずれが生じていることを表わす。この様にサジタル、
メリディオナル両平面内においての光軸方向の収束位置がことなる現象を非点
2C+D=0 場合には、
-(16)
となり、サジタル方向の焦線を表わす。(図7
2.4 歪曲収差
(3)(4)式において E 以外の係数が0の場合を考える。すると、
-(17)
(17)式で表わされる収差は、物体座標yのみに依存する。この場合、瞳座標
に依らないので、1点から射出した光線は明らかに1点に収束するのであるが、
その収束点の位置は物体高の3乗に比例し理想像点からずれてしまう。像位置は
物体高yに対して正比例しないので像の形は物体の形と相似にならない。この収
差を歪曲収差と呼ぶ。
図8(1)(2)に、それぞれ正と負の歪曲収差により、正方格子像がそれ
ぞれ糸巻型、樽型に歪められている様子を示す。
参考文献
1) :レンズ光、東、1988)
2) 草川 徹:設計者の波面光学(東海大学出版、東京1976
3) :応(岩、東、1980)
4) :光Ⅰ(朝、東、1979)
5) :レンズ設(共、東、1972)
6) :光(サイエンス社、東、1979)
7) 牛山善太、草川 徹シミュレーション光学(東海大学出版会、東京、2003