光学設計ノーツ 48(ver.1.0)
球面収差係数による幾何光学照度分布の計算
波面収差と光線収差の関係を表わす式を用いれば、光束の集光密度を計算し、
波面収差から像面上の照度分布を求めることが可能であり、任意の次数の、任意
の収差の存在する場合の照度分布を得ることができる。ここで得られる数式は、
スポット・ダイヤグラムの様な計算機実験的な結果からではなく、幾何光学的強
度の法則に基づく解析的な照度(強度)分布を直接表わす。今回は3次、あるいは
5次の球面収差を持つ光学系を例に取り、この理論的な幾何光学的照度分布を検
討することにより、これらの収差固有の強度分布パターンを、また、幾何光学理
論の限界などについて考えたい。
1. 3次の球面収差と像面移動が存在する場合の幾何光学的照度分布
本連載 45 回において述べさせていただいた様に、波面収差は光学系の構成、物
点位置により決められる係数 a0,b0,b1,…をもちいて

222 ,,,;,0 yyuWuyW

2
22
1
4
02
22
1
2
00
ucycybubyba
22
5
3
4
222
3
22
2
uycycuycyc


2
222
4
2
22
3
33
2
3
22
1
6
0
uydyudydudyd
322
8
2222
7
422
6
24
5yudyudyudyd
5
9yd (1)
と表現することができる。ここでの係数 a0,b0,b1,…は収差係数と呼ばれ、光学
系の構成、物点位置により決められる。
ここで、4 次までの球面収差と光軸方向の焦点ずれの収差の項を抜き出し、
これらの収差のみ存在すると考えれば、この時の波面収差
W
は、係数を簡潔のた
め、
c、b
とすると

22
2
22
ubucW (2)
となる。右辺第1項が球面収差、第2項が焦点ずれの収差を表わす。
ここで、(2)式で表わされる収差が存在する場合の、像面上の結像による照度
分布を、前回導いた(47-9)式を用いて計算してみよう。像面上、軸上結像
の理想像点位置、つまり原点からの光線到着点の距離の成分を(
x,y
)とすれば、
(1)式の波面収差と光線収差の関係から


ubuucR
u
W
Ruz
24, 22
(3)


bucR
W
Ruy 24, 22 (4)
また、同様にして(3)、(4)式をさらに微分し、

buc
u
W234 22
2
2
(5)

buc
W234 22
2
2
(6)
uc
u
W8
2
(7)
前回の(9)式、
1
2
2
2
2
2
2
2
u
WW
u
W
R
I
Ip
g (47-9)
により照度分布式を求めると

1
222
2
222
2812
4
bubcuc
R
I
Ip
g
(8)
となる。
瞳面上の座標
u’
、υ’を変化させて(8)より得られる照度分布を図示す
ると、図 1(a)から(f)となる。係数
b
の中には観測面の移動量が含まれており、
c
を一定にしてbが変化し、異なる像面位置において計算された照度分布がそれ
ぞれの図に示されている。この場合には、
c
は正の値にとってあり、
b
の負が大
きくなると像面が光学系に近づく。図 1 においては、分布が光軸について回転対
称なので回転軸から半分が描かれている。
2. 照度の発散について
(8)式から明らかな様にそれぞれの図において
0812 222
2
222
bubcuc
(9)
の時、照度は無限大に近づく。この場合は(9)式より、以下の関係が成り立っ
ている。
c
b
u6
22
(10)
c
b
u2
22
(11)
ここで、瞳上の極座標を導入し
cos
r
u
、
sinr
、
222
ur
と置いて、(3)(4)式より、辺々2乗して足し合せれば、像面上に描かれる円
の軌跡の方程式が得られて
2
322
2
4
r
c
b
rRcyx (12)
従って、(11)式は、画面中心部照度が無限大に発散している場合を表わし、(10)
式の場合は、像面上

2
2322 34 rrrRcyx

2
3
8Rcr
2
2
3
6
8
c
b
Rc (13)
より表わされる半径の円周上において照度は無限大となる。
また、像面上の動径ρ
r
c
b
rRcyx 2
4322
(14)
を考えると、両辺を
r
で微分して
c
b
rRc
r2
34 2
(15)
すると、(11)式は(15)式における
0
r
の解であることが理解できる。つまり、瞳上座標の単調な変化に連れて、像面上
の光線到着点の座標も変化するが、その動きの方向が変わる、ごく微小なrの変
化に対して、動きが止まる位置においては、無限小の面積に、有限の瞳面積から
の有限なエネルギーを持つ光束が集まり、照度が無限大に発散する計算結果とな
る。勿論、この様な結果は現実には起こらない。光の波としての性質のために、
無限小の面積に有限のエネルギーを持った光束が総て集光する様なことが起こ
り得ないからである。こうした幾何光学計算における留意点は次回で触れさせて
いただく予定である。
3. 5次収差を考慮した幾何光学的照度分布
上記3次に加えて5次の球面収差が存在する場合の照度分布計算結果を図
2(a)から(c)に示す。
上述と殆ど同様な計算が行なわれるので詳しくは触れないが、基本となる波面収
差
W
は

22
3
22
2
22
ubuducW (16)
と表わされる。
この計算においては上述と同じ量の正の3次収差を用い、それにバランス
する様に、負の 5 次収差を設定してある。図 2 においては、図 1 の場合と異なる
比例定数を用いているので、縦軸方向においては単純に比較できないが、横軸、
x
座標は同スケールで描かれているので、3次収差のみの場合と比べ、高照度部
周辺に広がるフレアが減少し、フレアを抑えた状態での光の芯も細くなっている
ことが容易に分かる。
また、
b
が、近軸結像位置を超えて正方向に増加する時(ボケて行く時)、
3次収差のみの場合には、単調に分布の起伏が緩やかに変化して行くのに比べ、
中心部の変化は3次のみの場合とあまり変わらないが、負の5次収差が存在する
場合には、その影響で周辺部に図 2(a)における様な発散部を生じることが理解
できる。
4.参考文献
1) 草川 徹:レンズ光学(東海大学出版会、東京、1988)
2) 草川 徹:レンズ設計者のための波面光学(東海大学出版、東京、1976)
3) 久保田広:応用光学(岩波書店、東京、1980)
4) 辻内順平:光学概論Ⅰ(朝倉書店、東京、1979)
5) 松居吉哉:レンズ設計法(共立出版、東京、1972)
6) 村田和美:光学(サイエンス社、東京、1979)
7) 牛山善太、草川 徹:シミュレーション光学(東海大学出版会、東京、2003)