ver.1.0)
球面収差係数による幾何光学照度分布の計算
波面収差と光線収差の関係を表わす式を用いれば、光束の集光密度を計算し、
波面収差から像面上の照度分布を求めることが可能であり、任意の次数の、任意
の収差の存在する場合の照度分布を得ることができる。ここで得られる数式は、
スポットダイヤグラムの様な計算機実験的な結果からではなく幾何光学的強
度の法則に基づく解析的な照度(強度)分布を直接表わす。今回は3次、あるいは
5次の球面収差を持つ光学系を例に取り、この理論的な幾何光学的照度分布を検
討することにより、これらの収差固有の強度分布パターンを、また、幾何光学理
論の限界などについて考えたい
1. 3次の球面収差と像面移動が存在する場合の幾何光学的照度分布
本連載 45 回において述べさせていただいた様に、波面収差は光学系の構成、物
点位置により決められる係数 a0,b0,b1,…をもちいて

222 ,,,;,0 yyuWuyW

2
22
1
4
02
22
1
2
00
ucycybubyba
22
5
3
4
222
3
22
2
uycycuycyc


2
222
4
2
22
3
33
2
3
22
1
6
0
uydyudydudyd
322
8
2222
7
422
6
24
5yudyudyudyd
5
9yd 1
と表現することができる。ここでの係数 a0,b0,b1,…は収差係数と呼ばれ、光学
系の構成、物点位置により決められる。
ここで、4 次までの球面収差と光軸方向の焦点ずれの収差の項を抜き出し、
これらの収差のみ存在すると考えれば、この時の波面収
W
は、係数を簡潔のた
め、
c、b
とすると

22
2
22
ubucW (2)
となる。右辺第1項が球面収差、第2項が焦点ずれの収差を表わす。
ここで、(2)式で表わされる収差が存在する場合の、像面上の結像による照度
分布を、前回導いた(47-9)式を用いて計算してみよう。像面上、軸上結像
の理想像点位置、つまり原点からの光線到着点の距離の成分を(
x,y
)とすれば、
(1)式の波面収差と光線収差の関係から


ubuucR
u
W
Ruz
24, 22
(3)


bucR
W
Ruy 24, 22 (4)
また、同にして(3)、(4)式をさらに微し、

buc
u
W234 22
2
2

buc
W234 22
2
2
uc
u
W8
2
前回の式、
1
2
2
2
2
2
2
2
u
WW
u
W
R
I
Ip
g (47-9)
照度分布式を求め

1
222
2
222
2812
4
bubcuc
R
I
Ip
g
となる。
瞳面上の座標
u’
、υ’を変化させて(8)より得られる照度分布を図示す
ると、図 1(a)か(f)となる。係数
の中には観測面の移動量が含まれており、
を一定にしてbが変化し、異なる像面位置において計算された照度分布がそれ
ぞれの図に示されている。この場合には、
は正の値にとってあり、
の負が大
きくなると像面が光学系に近づく。 1 においては、分布が光軸について回転対
称なので回転軸から半分が描かれている。
2. 照度の発散について
8)式から明らかな様にそれぞれの図において
0812 222
2
222
bubcuc
(9)
の時、照度は無限大に近づく。この場合は(9)式より、以下の関係が成り立っ
ている。
c
b
u6
22
10
c
b
u2
22
11
ここで、瞳上の極座標を導入し
cos
r
u
sinr
222
ur
と置いて、(3(4式より、辺々2乗して足し合せれば、像面上に描かれる円
の軌跡の方程式が得られて
2
322
2
4
r
c
b
rRcyx 12
従って、(11式は、画面中心部照度が無限大に発散している場合を表わし、(10
式の場合は、像面上

2
2322 34 rrrRcyx

2
3
8Rcr
2
2
3
6
8
c
b
Rc (13)
より表わされる半径の円周上において照度は無限大となる。
また、像面上の動径ρ
r
c
b
rRcyx 2
4322
14
考え両辺を
で微して
c
b
rRc
r2
34 2
(15)
すると、(11)式は(15)式における
0
r
の解であることが理解できる。つまり、瞳上座標の単調な変化に連れて、像面上
の光線到着点の座標も変化するが、その動きの方向が変わる、ごく微小なrの変
化に対して、動きが止まる位置においては、無限小の面積に、有限の瞳面積から
の有限なエネルギーを持つ光束が集まり、照度が無限大に発散する計算結果とな
る。勿論、この様な結果は現実には起こらない。光の波としての性質のために、
無限小の面積に有限のエネルギーを持った光束が総て集光する様なことが起こ
り得ないからである。こうした幾何光学計算における留意点は次回で触れさせて
いただく予定である。
3. 5次収差を考慮した幾何光学的照度分布
上記3次に加えて5次の球面収差が存在する場合の照度分布計算結果を図
2(a)か(c)に
上述と殆ど同様な計算が行なわれるので詳しくは触れないが、基本となる波面収
W

22
3
22
2
22
ubuducW 16
と表わされる。
この計算においては上述と同じ量の正の3次収差を用い、それにバランス
する様に、負の 5 次収差を設定してある。 2 においては、 1 の場合と異なる
比例定数を用いているので、縦軸方向においては単純に比較できないが、横軸、
x
座標は同スケールで描かれているので、3次収差のみの場合と比べ、高照度部
周辺に広がるフレアが減少しフレアを抑えた状態での光の芯も細くなっている
ことが容易に分かる。
が、近軸結像位置を超えて正方向に増加する時(ボケて行く時)
3次収差のみの場合には、単調に分布の起伏が緩やかに変化して行くのに比べ、
中心部の変化は3次のみの場合とあまり変わらないが、負の5次収差が存在する
場合には、その影響で周辺部に図 2(a)における様な発散部を生じることが理解
できる。
4.参考文献
1) :レンズ光、東、1988)
2) 草川 徹:設計者の波面光学(東海大学出版、東京、1976
3) :応(岩、東、1980)
4) :光Ⅰ(朝、東、1979)
5) :レンズ設(共、東、1972)
6) :光(サイエンス社、東、1979)
7) 牛山善太、草川 徹シミュレーション光学(東海大学出版会、東京、2003