光学設計ノーツ 56(ver.1.0)
平面波スペクトラム法と回折理論の関係
任意の平面上の電場の複素振幅分布をフーリエ変換することにより、様々な方向に伝播す
る様々な振幅を持った平面波の合成として、その複素電場を表現できた。今回はその様な光波
の表現手段から得られる回折理論の代表的な基本式について解説させて戴きたい。
1. 平面波スペクトラム表示とフレネル回折等の回折理論との関係
ここで、伝播方向
に対してあまり広がらない光波、
軸と比較的小さい角度を為す
方向に伝播する要素平面波のみを重ね合わせた光波を考える。さて、この様な近軸的な領域に
おいては、前回(2)式、
rkiAu
exp 55-2)
における
k
z
2
11
22
22
(1)
と一次近似することが出来る。(55-2)式で表される平面波の様々な方向へ伝播するものの 合成
により記述される複素電場は前回(3)式、

ddzyxiAzyxu 2exp,,, 55-3)
にこの関係を代入し、


dd
zz
yxiAzyxu 2
2exp,,, 2
2
2
2


ddiizA
iz 2expexp,)
2
exp( 2
2
2
2
2
となる。この(2)式に注目すると、式全体が大括弧内の関数の逆フーリエ変換となっている
ことがわかる。コンボリューション定理から(2)式は大括弧内の積の形の二つの関数のそれ
ぞれの逆フーリエ変換の関数のコンボリューションとして表すことが出来る。
FT
-1 を逆フーリ
エ変換の操作を表すとして



z
yx
i
iz
ffizFT yx
22
221 exp
1
exp 3
なので
 

ydxd
z
yyxx
iyxu
iz
z
i
zyxu
22
exp0,,
2
exp,,
4
となる。この式は本連載27回において導いたフレネル回折積分式を表す。
さらに整理して、


0,,
2
exp
2
exp
22 yxu
z
yx
ik
iz
z
i
ydxd
z
yyxx
i
z
yx
i

2expexp
22
(5)
となる。ここからは本連載27回の場合と同様にして、
max
2
0
2
0
2yx
z
 (6)
と出来る領域であれば、
  

ydxdyyxx
z
i
yxg
z
yx
zi
z
i
yxU
2
exp,
2
2
exp,
22
(7)
としてフラウンホーファー回折近似式が得られる。
2. 平面波角度スペクトルによる正弦波回折格子の機能の表現
最大値を1として振幅透過率を、格子の周期を
p
として正弦波回折格子(1)
正弦波格子
以下の如くに表そう。

p
x
yxg 0
00 2cos1
2
1
,
(8)
(8)式の複素表示を行なえば、

p
ikx
p
ikxyxg
0000 exp
4
1
2
1
exp
4
1
, (9)
と出来る。ここで、再生光としての入射波の振幅を
U
0(
x,y
)とすれば正弦波回折格子透過直後
の振幅
U
0(
x,y
)は、入射波と(9)式の積の形で表せて、

0,, 000 yxU
 
p
ikxyxUyxU
p
ikxyxU
00000000000 exp0,,
4
1
0,,
2
1
exp0,,
4
1
(10)
この(10)式に透過前(屈折率 n)、透過後(屈折率 n’)の平面波式(波長λは真空中の値を用い
ていることに要注意)

00000 exp0,, MyLxinkyxU
(11)

zNyMxLknizyxU
exp,,
0 (12)
を代入しフーリエ変換される初期複素振幅分布(z=0)が表される。(10)式右辺3項は別々に
フーリエ変換可能であるので、其のうちの第 1項のみ考えるとして、平面波角度スペクトル分
A
( )は以下のフーリエ変換として表される。

dxdyy
M
x
L
nix
P
iMyLxni
ML
A

2exp
2
exp
4
12
exp0,,
dxdyy
Mn
x
Ln
i
nM
yi
P
nL
xi

2exp2exp
1
2exp
4
1
dyy
Mn
i
nM
yidxx
Ln
i
P
nL
xi
2exp2exp2exp
1
2exp
4
1
nMMn
P
nLLn 1
4
1
(13)
上式、デルタ関数で表される方向(つまりδ(0)になる方向)に 1/4 の振幅の平面波が伝播す
る事になる。この時、(13)式より
nMMn
P
nLLn
,
であり、本連載6回、(8)(9)式と一致する。
3. 参考文献
1) 飯塚啓吾:光工学(共立出版、東京、1983)
2) 石黒浩三:光学(共立出版、東京、1953)
3) 辻内順平:光学概論Ⅱ(朝倉書店、東京、1979)
4) 永田浩:”回折格子”光工学ハンドブック(朝倉書店、東京、1986)
5) J.Gaskill:Linear Systems, Fourier Transforms, and Optics
(JOHN WILEY & SONS,New York, 1978)
6) M.Born & E.Wolf :Principles of Optics,7th edition(Pergamon Press,
Oxford,1993)/草川徹訳:光学の原理(東海大学出版会,2005)
7) ヤリーブ:光エレクトロニクス基礎編(多田邦夫、神谷武志監訳)
(丸善、東京、2002)
8) J.W.Goodman:Introduction to Fourier Optics 2nd.edi.
(McGraw-Hill,NewYork,1996)
9) 牛山善太:波動光学エンジニアリングの基礎(オプトロニクス社、東京、2005)