光学設計ノーツ 57(ver.1.0)
平面波スペクトラム法と光学設計・評価への応用
平面波スペクトラム法についてこれまで述べさせて戴いて来たが、今回はこの手法を
光学系評価の場において、どの様に応用していくのか、どの様に計算をまとめるのか、と
言うことに関連して解説させて戴きたい。
1 光学系設計・評価への応用、像面での考え方
空間における、光波の伝播を平面波スペクトラム法により表わせることは述べた。様々
な光工学の分野で有用であるが、この手法は、さらに収差を持つ光学系がその系の中に存
在する場合にも、レーザ光源の様な、小さなフレネル数を持ち、(既述した様にこうした光
源からの等位相波面には単純に幾何光学的波面の進行を想定できない)空間的にコヒーレ
ントな面積を持つ光源による光波の伝播、被写体の結像を評価・再現することに役立つ。
これまで述べたように、初期平面における複素振幅分布を入力することにより、そこから、
半空間に放射する光波を平面波に要素分解して表現できる。この時の、各要素平面波の振
幅は本連載第54回(4)式、


dxdyyfxfiyxuffA yxyx
2exp0;,0;, 54-4
より得られることになる。簡単に述べればこれら要素平面波が収差を持つ光学系を透過し、
その波面の形を変え像面に達し、それらの多数の要素波が再びコヒーレントに振幅合成さ
れて所望の像平面上での複素振幅分布、或いは強度分布が得られることになる。この時、
レンズ系等を含む一般的な光学系通過中において光波は、主に開口絞り径と媒質境界面に
影響を受けることになるが、既述の様にそれらの構造が波長と比べ十分に大きければ、高
い精度を保ったまま、こうした要素に影響を受けた幾何光学的波面の進行を想定できる。
光線追跡により光学系の透過波面を求めることが出来る。
そして、要素平面波がその形を変えた透過波面、或いは任意の射出面上の振幅分布で表
わされる光波の像面上への自由空間における伝播については、これまで取り上げてきた回
折光伝播計算の手法(平面波スペクトル法、キルヒホッフ回折、フラウンホーファー回折、
単純な幾何光学的波面の振幅合成等)を必要な精度・状況に応じて用いることが出来る。
その後これらの分布が合成されることになる(1)
1(a) 平面波スペクトル法における波面の合成(共役面と焦点面が離れている場合)
1(a) 平面波スペクトル法における波面の合成(共役面と焦点面が離れている場合)
1(b) 平面波スペクトル法における波面の合成(共役面と焦点面が接近している場合)
また、本節で取り上げた平面波スペクトル法には、スカラー・ヘルムホルツ方程式に
対して近似を含んでいない。従って、高 NA の結像光学系の点像強度分布を求める際には
物体面(光源面) 結像系 結像面
後側焦点位置
物体面(光源面) 結像系 結像面
後側焦点位置
透過波面の平面波スペクトルを用いて、像面上振幅分布を高い精度で計算することがシン
プルなアルゴリズムで可能となる7)
。偏光の扱いも容易である。
.がりのある物体の結像
上記の通り、素平面波に分割された光波は、像面上で広がりのある像として合成され
る。ここでは、広がりのある物体による、広がりのある(一つの点光源からの結像では無
く、の意味)像の結像について述べさせていただきたい。
2.1 コヒーレント結像
一般的な光学系評価においては点光源に対応する点像の評価がその基本となる。しか
し実際の光学系において、被写体は広がりを持ち、点像の評価を、ある広がりについて関
連させ、拡張して考えなければならない。その場合、総合的な結像性能を表す OTF も、
写体の発光状態、或いは被照明状態により然るべき検討を経なければならない。平面波ス
ペクトル法もそうした目的のための手段である。
最初にコヒーレントな場合の結像について考えよう。ここで言うコヒーレントとは、
時間的、空間的な意味であり、単色、或いは準単色光により発光して、物体から発する各
部分による光波の位相関係が一定に保たれている状態をである。
コヒーレントな場合には物体面上の各点光源からの光波が像面上で干渉して像が形成
されるので、描く像点における振幅の合成を計算せねばならない。そこで、 7.8 にある様
に物体面上の振幅分布を
o
a
x
0,
y
0、光学系によるガウス像面上の像の振幅分布を
u
(
x’,y
’)
とおく。さらに、この光学系による点像の振幅分布関数を
h
a
0
x
’,
y
’;
x
0,
y
0とする。これは、
指定される物点位置に対して異なる点像振幅分布を出力する関数である。すると


0000000 ,,;,, dydxyxoyxyxhyxu aa -(1)
と、結像関係を表現できる。
ここで、物点(
x
0,
y
0)の近軸像点を
00 ,yx とすれば、
o
a(
x
0,
y
0)に一対一に対応する相似
形の理想的幾何光学像

00 ,yxoaを想定することが出来る。すると、新たな関数
h
a
()を像面
上座標である、

00 ,yx (
x
’,
y
’)の関数と考えることが出来て、
 

000000 ,,;,, ydxdyxoyxyxhyxu aa -(2)
の関係が成り立つ。
ここで、アイソプラナティズム成立の仮定を関数
h
a
に対して設ける。

00 ,yx が変化
しても分布自体の形状が変化しないと言う線形性の仮定である。(実際の光学系においても
部分的には成立している。すると、
h
a
においては、その中の基準点からの距離のみによっ
て分布を表現することが出来るので、(2)式は、
 

000000 ,,, ydxdyxoyyxxhyxu aa -(3)
と、表現できる。明らかに、上式右辺は 2関数の畳み込み積分convolution になっており、
*の記号を用いて簡便に、
aa ohu
-(4)
と、表記する。
実際に観測されるのは像の強度分布であり(参考文献(8)1.3(32)式参照)(3)式の
絶対値の2乗をとり、
 
2
000000
2,,,, 
ydxdyxoyyxxhyxuyxi aac (5)
と表現できる。
2.2 インコヒーレント結像
インコヒーレントな場合には、物体面上の各点光源からの光波の像面上での干渉は起
こらず、単に強度の重ね合わせを考えれば良い。そこで、前節の様に振幅分布ではなく、
物体強度分布、像強度分布、光学系による点像強度分布を、それぞれ
o
(
x
0,
y
0)
i
(
x
’,
y
’)
h
(
x
’,
y
’;
x
0,
y
0)とおく。ここでも、線形性成立を仮定すれば、(3)式を導くのとまったく同様に
して、
 

000000 ,,, ydxdyxoyyxxhyxi -(6)
或いは、
ohi
となる。インコヒーレントな場合には、この計算結果が強度として直接観測できる。
3. 参考文献
1) 飯塚啓吾:光工学(共立出版、東京、1983)
2) 石黒浩三:光学(共立出版、東京、1953)
3) 辻内順平:光学概論Ⅱ(朝倉書店、東京、1979)
4) J.GaskillLinear Systems, Fourier Transforms, and Optics
(JOHN WILEY & SONS,New York, 1978)
5) M.Born & E.Wolf :Principles of Optics,7th edition(Pergamon Press,
Oxford,1993)/草川徹訳:光学の原理(東海大学出版会,2005)
6) ヤリーブ:光エレクトロニクス基礎編(多田邦夫、神谷武志監訳)
(丸善、東京、2002)
7) E.Wolf:Proc.Roy.Soc.A253,349(1959)
8) 牛山善太:波動光学エンジニアリングの基礎(オプトロニクス社、東京、2005)