光学設計ノーツ 60 (ver.1.0)
平面波の表現について
本連載第 5回においてホログラムの原理について触れさせていただいた。そこではホ
ログラム平面内に干渉縞が記録される所謂、薄いホログラムの範疇でお話をさせて頂いた。
その続きとして(大分、時間が経ってしまったが)厚みのある、体積のあるホログラムにつ
いて考えさせていただきたいのであるが、今回はそのための予備知識として平面波につい
て改めて触れさせていただく。本連載においてはたびたび登場し、非常に重要な“平面波“で
あるが、これまでそれ自体についての解説は行ってはいなかった。反省しつつここに記させ
ていただきたい。
1.正弦波の表現
正弦波は最も基本的でシンプルな波動の一つである。この正弦波が、
方向に速度
で進行
する場合は、

vtxkAtxu cos,
と表わされる。波動の揺れ、変位の最大値
A
を最大振幅、cos の中括弧内を位相と呼び、角度で
ある。また、明らかに正弦波は周期を持っている。この様に時間的な周期性を持った波動を、時間
に対して調和的(harmonic)であると言う。そこで空間的な1周期を波長λ、時間的な周期を周期
T
で表わす。
v
T
(2)
(1)式の
u
()
t
t
+
T
に置き換えても変化しない。
は波数と呼ばれ、波動が単位距離進行する
時に変化する位相角度であり、
2
k
と表わされる。波数に光波の進行距離を乗じれば進んだ位相が得られる。φは初期位相の項で
り、空間座標
と時間座標
の原点を適当に選べば0にすることができる。また、周波数
を用いれば、
v
T
f 1
であり、単位時間に変化する位相角度を角周波数ωで表わし、
f
2
2
となる。
真空中の光速を
とすれば、ここまでの
は任意の媒質中の速度であるとして、
の比がその
媒質の屈折率となり、
v
c
n6
である。
また、周波数fは不変であるので真空中の波長を
λ
0として、(4)(6)式より、
0
c
n
c
f
よって、
0
n7
となる。
波動の位相が等しい点を連ねた面を等位相面、或いは波面と呼ぶ。(1)式により表わされる
波動は
方向へ進行する1次元的波動であるが、
軸に垂直な平面を等位相面として形成する
は総べて(1)式で表わされる。ある平面(等位相面)内の情報は(1)式ですべて表されてしまうし、
他に表わされるものもない(必要十分)。この様に表わされる、等位相波面が平面の波動を平面波
と呼ぶ。
2.平面波の表現
ここで、2次元、或いは3次元空間を伝播する平面波の記述について改めて説明させて頂
こう。取りあえず2次元座標上で、1に示した様に、
軸とθの角度を為す方向に進行する正弦平面波を考えよう。新たに、旧座標と原点を共
有し、波動の進行方向に
X
軸、これに直交した、波面の広がりに沿う方向に
Y
軸を持つ新座標系
を考えると、初期位相項を0とおいて、
T
kv 2
なので、X軸方向に進む正弦波は以下の如くに表せる。

tkXAtYXu
cos,, 8
因みに位相を(-
kX
-
ωt
)とすると逆方向(
の負の方向)に進行する波を表わす。
この式を
旧座標に変換すると、
図1 2次元的平面波
cosX
x
sinXy
であり、また、
22 cossin XX
coscossinsin
YXX
と表わせるので、これらの関係より(8)式は、


tyxkAtyxu
sincoscos,, 9
ここで、波数
を考えると、これは新
X
軸上で単位距離、波動が進行する時に変動する位相角を表
わすので、
X
軸に沿った方向(波動進行方向、この場合
X
軸方向)と量
を持ったベクトルを新しく
考えることができる。これを波数ベクトルと呼ぶ。

sin,cos, kkkkk yx
10
よって、(9)式は、

tykxkAtyxu yx
cos,, 11
と表わすことができる。
さて、上記(11)式を3次元空間における波動の表現に拡張することは容易である。2にお
ける様に座標をとると、
波面の進行方向を、波面座標系上の
X
軸と考えれば、
X
軸方向の旧座標に対する方向余弦
を導入して、
cosXx
cosXy
cosXz
また、
X
2=
x
2+
y
2+
z
2なので、(9)式を得るときと同様に考えて、

tkXAtzyxu
cos,,,

tkzkykxA
coscoscoscos
(12)
となる。ここで、ベクトルkは


cos,cos,cos,, kkkkkkk
zyx
と表 できるので、(12式は


tzkykxkAtzyxu
zyx
cos,,, 13
である。また、任意の座標(
x、y、z
)の位置ベクトル r
を考えると、波動の進行方向を表わす波数
図2 3次元的平面波
ベクトルとの内積を用いて、内積はベクトル各成分それぞれの積の和であるから、(13)式は、

trkAtru
cos, 14
と表現することができる。 この波動はスカラー波動方程式、
2
2
22
2
2
2
2
21
t
U
z
U
y
U
x
U
(15)
を満たす。
さて、ここで、複素表示を用いると(exp の実数部のみ有効という置き換え)

trkiAtru
exp, 16
とすることができる。また、多数の光波の干渉等を考える場合、自ずと同一の光源から発し
た光波の重ね合わせについて、同時刻において考えなければならないので、光学では空間成
分のみを問題にする場合が多い。16)式から時間依存項を省略すると、

rkiAru
exp 17
と表現できる。
3. 参考文献
1) M.Born & E.Wolf :光学の原理Ⅲ、第 7/草川徹訳(東海大学出版会、東京、2005)
2) 石黒浩三:光学(共立出版、東京、1953)
3) 小瀬輝次:フーリエ結像論(共立出版,東京,1979)
4) 草川 徹:レンズ設計者のための波面光学(東海大学出版、東京、1976)
5) 村田和美:光学(サイエンス社、東京、1979)
6) 谷田貝豊彦:光とフーリエ変換(朝倉書店、東京、1992)
7) 牛山善太:波動光学エンジニアリングの基礎(オプトロニクス社、東京、2005)