光学設計ノーツ 62 (ver.2.0)
導体中のヘルムホルツの方程式
前回は厚みのあるホログラムについて考えさせていただいた。そこでは体積内に多層
的な干渉縞が形成されることや、情報再生のためには、薄いホログラムの場合とは異なり、
厳しい再生の条件が存在すること、つまり、複数のホログラム原稿が一つの体積ホログラム
中に多重露光されていても、再生光照射時に角度、波長等において、それぞれのホログラム
に固有の条件のみを満たすことにより、所望のホログラムのみの再生が可能になるという
選択性が存在すること等について解説させていただいた。本連載、以降ではこの選択性、
いは Bragg 条件についての考察を、さらに進めさせて頂きたい。そこで、最初に、波数
k
のより一般的な表示を行う際に必要になる、吸収などを含む、導体中の光波の挙動を表現す
る方程式について解説させていただく。
1. 緩和時間τを含む電荷密度ρの表現
媒質中の電荷密度をρ、媒質中に生じる電流を j
として、電束密度 D
磁束密度
B
電場の強さ
E
磁場の強さ
H
とすれば、Maxwell の方程式より以下の関係が得られる。(参
考文献[3],P.1)
t
D
jH
rot (0)
この(0)式の両辺に div をとると、ベクトル公式、
0rotdiv A
から
0divdiv)div(rot
j
t
D
H
1
また、オームの法則により電流密度 j
E
は電導率 σ を用いて以下の様に表せる。
Ej
2
この(2)式の関係と、
D
div ()
さらに、εrは比誘電率、εは誘電率、μrは比透磁率、μは透磁率であり、真空中の誘電率、
透磁率をそれぞれ、ε0、μ0とするとき
EED r
0 (4)
と表わせて,これらの式より(1)式は
0div
E
t
0div
D
t
0
t (5)
となる。時間
t
で積分すると
dt
であり、解は
t
exp
0
であって、ここで緩和時間、τを用いて
(6)
と置けば、解は
t
exp
0 (7)
となる。この7式より、電導率σが 0に近い値を持つ場合以外は、電荷密度ρは時間経
過と共に指数関数的に減少していくことが分かる。
2. 複素誘電率の定義
さて、(0)、(4)式より
t
E
jH
rot (8)
である。ここでは、電場 E を光波と時間項の積として

tizyxutzyxE
exp,,,,,
9
と表わすとすれば(8)式は
EijH

rot (10)
となる。さらに(2)式より
EiEH

rot
1


i
Ei
従って
EiiH


1rot (11)
となる。電荷が存在せず、等方性媒質中であれば
EiH

rot 12)
の関係が成立するわけであるから(11)(12)式を比較して

i1
ˆ (13)
を新たに、複素誘電率として導入し形式的に導電性を誘電率に含めて議論できる。
3. ヘルムホルツの方程式
さて等方媒質中の Maxwell の方程式より
2
2
2
t
E
E

(14)
の関係が得られる(参考文献[4]p4(16)式)。上記(9)式を代入して
0
22 EE

(15)
なる、ヘルムホルツの方程式が得られるが、この(15)式に新たなεとして複素誘電率を表す
(13)式を代入し、導電性を考慮した式を得る。
01
22
EiE

(16)
4. 参考文献
[1] M.Born & E.Wolf : Principles of Optics, 6th edition (Pergamon Press, Oxford,1993)
/草川徹、横田英嗣訳:光学の原理(東海大学出版会,1977), p236.
[2] 辻内順平:光学概論Ⅰ(朝倉書店、東京、1979, p42.
[3] 三好旦六:光・電磁波論(培風館、東京、1995.
[4] 牛山善太:波動光学エンジニアリングの基礎(オプトロニクス、東京、2005.