光学設計ノーツ 73 (ver.1.0)
光線の構造 1
はじめに
一般的に非常に多くの光線が追跡される照明系設計においては,光線と言うものをエ
ネルギーがただ飛来して照度を齎すと言う照明粒子の軌道として捉えがちであるが,フェ
ルマーの原理に支配された集合としての光線の構造を考えることは有益であり,そこから,
一般化されたラグランジュの不変量も,輝度不変則,正弦条件もそして特性関数,エタンデ
ュも導出でき,微小光束の立体角と,光斑の広がりの関係を知ることが出来,光学設計の高
効率化も可能と成り得る。本稿ではこうした光線の基本的な構造について解説させていた
だきたい。ただやみくもに多くの光線を追跡するのではなく,こうしたことの理解は設計の
効率化,光学系の構造・限界の把握に繋がる。
1.光線の構造
光線とは光波の進む方向を表す,波面に直交する補助線として,理解されている場合が
多い。或いは照明系設計的には単純にエネルギー,明るさを運ぶ粒子の軌跡であるとイメー
ジすると考えやすい場合もある。いずれにしても広がりを持つ光全体の進行を代表する離
散的な存在であり,何らかの連続的な広がりがその背後に存在している。光源(或いは被写
体)の面積が存在する場合には、そのような広がりをさらに代表する様な光線を考えれば図
1の様な表現に至る。黒い線で表わされている代表的な光線は光源の発光角度に応じて、
源上の代表的な位置から、代表的な方向に発射される。これらの光線方位と位置の離散的な
間隔は十分細かくとられている。しかし、光線追跡では考慮されないが、本来は微小光源区
域から、黒い光線と、正式な光線同士の角度ピッチよりも遥かに細かい角度差異を持つ近隣
光線が存在しているはずである(赤、青の光線)。図中の赤或いは青と黒の光線は互いに無
関係には存在できない。
具体的にこうした光線の構造を以降説明させていただく。
1 近隣光線の考え方
2.一般化されたラグランジュの不変量
初に光線を考えていくうえで重要な一般化されたラグランジュの不変量について
れる(近軸領域におけるラグランジュの不変量については参考文献 1,2)を参照されたい)2
AAを通過する光線が存在するとする(2)。途中に光学系が存在していると考えても
良い。そこで,A,A 点がそれぞれ微小な距離
dr
dr
任意の方向に移動し B,B’となる場合
を考えよう。そして Bから B’への光線経路を想定する。この時,Aから Aへのものと同様
Bから B’への光線経路も実在するものとする。これら二つの経路の光路差を調べよう。
2 フェルマーの原理より考察する光路差
そこで, 2にある様に Aから十分離れた光線 AA上の位置に点 PAから十分離れた光
AA上の位置に点 Qを置き,経路 BPQB’を仮定する。
フェルマーの原理によれば 2点を結ぶ実際の光線経路の光路長は停留値をとるため,両
端を固定して経路を微小変化させた場合,この経路変化を極微小とすれば,元の光路との光
路長差が 0になる。つまり,実際の計算においては光路差が微小量の 2次以上の量である
必要がある。この事柄は変分記号δを用いて以下の様に表される 3,4,10)[ ]は物理的距離に
屈折率を乗じた光路長を表す。
[ ]
0
'
==
dsnBB
B
B
δδ
(1)
従って,
[
]
[
]
[
]
[
]
'' APQABPQBAABB
=
[
]
[
]
[
]
[
]
AQAPQBBP
+
=
'
(2)
また,∠BPA, B’QA はごく微小な角度なので 2次以上の微小量を無視して(2)式は
[
]
[
]
[
]
[
]
ACCAAABB
=
(3)
となる。さらに
dr
dr
の移動方向に直交する方向と,光線 AAの為す角度をそれぞれα,
αとすれば(3)式は
[
]
[
]
sinsin'' ndrdrnAABB
=
(4)
と表わせる。
ここで,図 3にある様に Aを出発して B’に達する光線を探す。この時の光線 AB’の光線
AABB’と為す微小な角度をそれぞれ,
d
β,
d
βとする。また,Bから,そして A‘から
AB’に下した垂線の交点をそれぞれ,C#,C#としよう。この場合
d
β,
d
β はやはり非
常に微小な角度であって,上記(3),(4)式におけるのと同様に,以下の様に出来る。
[ ] [ ] [ ] [ ] [ ] [ ]
BCCCCCACBBAA
+=
######
[ ] [ ]
BCAC
= ##
(5)
[ ] [ ]
)sin()sin(''
βαβα
+
+= drdndndrBBAA
(6)
3 角度の異なる光線の光路差
ここでさらに,三角関数の加法定理を用い,
β,dβ
が微小であることにより、2 次以上
の微小量を無視する近似を行ない上式は以下の如くに整理される。
[ ] [ ]
{ } { }
βααβαα
+
+= drdndndrBBAA cossincossin''
(7)
(4)式と(7)式の辺々を加えて
βαβα
= drdndndr coscos0
よって,
βαβα
=drdndndr coscos (8)
となる。
ここで,
drdr
と主光線を含む平面と垂直方向の平面を考え, 4にある様に,この平
面内での AAの微小移動距離
dtdt’
移動後の点,D,D’微小角度
γγ
をとる。 3
と図 4を比較すれば図 4において線分 ADA’D’が主光線と垂直であるところが異なるだけ
であるので,α=0 と置いた場合の(15)式と同様の形として
γγ
=dtdnndtd (9)
なる関係が得られる。
4 サジタル方向の光路差
ここで(8)(9)式を辺々掛け合わせれば,光源,光斑の微小面積として以下の様に考えられ
て,
drdtdS =
tdrdSd
=
dS’,dS
にそれぞれ張る立体角について
γβ
ddd =
γβ
=ddd
と置いて
cos  Ω ′
cos α′
Ω′ (10)
なる重要な関係が導かれる。この(10)式が成立することは Straubel の定理と呼ばれる 5)
The Generalized
Lagrange Invariant6,7)とも呼ばれる。
3. 参考文献
1) 松居吉哉:レンズ設計法(共立出版,東京,1972,p.23.
2) M.J.Kidger:Fundamental Optical Design(SPIE Press, Bellingham,2001),p.25.
3) V.N.Mahajan:Optical Imaging And Aberrationspart
(SPIE Press,Bellingham,1998.p.6.
4) A.Walther: The Ray and Wave Theory of Lenses
(Cambridge Univercity Press,Cambridge,1995),p.21.
5) 鶴田匡夫:第4・光の鉛筆(新技術コミュニケーションズ,東京,1997,p.410.
6) W.T.Welford:Aberration Of Optical Systems (AdamHilger,
Bristol,1986),p.87.
7) W.T.WelfordR.Winston:High Collection Nonimaging Optics
(Academic Press, San Diego1989)
8) W.H. Steel,” Luminosity, Throughput, or Etendue?”,
Appl. Opt. 13, 704 (1974).
9) R.W.Boyd:Radiometry and Detection of Optical Radiation
John Wiley & Sons,New York,1983),p.89
10) 工藤恵栄,上原富美哉:基礎光学(現代工学社,東京,1995,p.53.
11) M.Born & E.Wolf : 7版/草川徹訳(東海大学出版
,2005),p.169,p.199.
12) 龍岡静夫:光工学の基礎(昭晃堂,東京,1990
13) 鶴田匡夫:第 10・光の鉛筆 (新技術コミュニケーションズ,東京,2014
14) 佐藤浩:光学技術の辞典,110 節(朝倉書店,東京,2014,p427.
15) 牛山善太,草川徹:シミュレーション光学(東海大学出版会,東京,2003