LED 照明ノーツ 11
照明系設計・シミュレーションソフトについて 2
そこで用いられる明るさの単位について
前回から、照明系設計時には重要な役割を果たす照明系設計・シミュレーションソフ
トについて解説させていただいている。今回はそこで、扱われる光・明るさの単位につい
て触れさせていただく。こうしたソフトによる計算結果は全てこれらの単位を介して表現
される。
1. 放射量、視感度そして測光量
目が明るさを感じる波長域(可視域)は通常、3
80から780nm であるとされ、視感度を考慮した
単位時間あたりに透過するエネルギー量(目が感じら
れるエネルギー量)光束
L
v
は、変換の際の係数を
K
M
として、以下の如くになる。物理的な単位時間あたり
のエネルギー
e
に目の感度によるウエイト
(図 1)
が乗ぜられ積分される形となる。
(1)
また、1979年に、波長555nm において、放射束 1ワットに対し光束が 683
ーメンと定義されたので(明るさの単位については下の項をご参照ください)、変換係数
は、
となる。一般的に物理的なエネルギー量を基にした照明系の単位を放射量、視感度を考慮
した光束を基にした単位を測光量と呼ぶ。一般照明の様に人間が光を感じるための器具で
あれば、紫外線や赤外線などの人が感知できない波長領域のエネルギーはカットして明る
さを考えた方が都合の良い事になる。
例えば 480nm で放射量 1ワットの発光は、 1 に示された分布
V
λ
)よ555nm
480nm における値の比を
V
(480)に代入して、測光量では約 95 ルーメンと計算できる。
この様に、光源からの光に含まれるすべての波長域について物理量を元にし(1)式による積
分(コンピュータ上では波長域を細かく分けた離散的な、上述のような計算の和になるが)
を行い、測光量の光束が得られることになる。
現在の照明系設計ソフトにおいては、これらの 2 つの単位系の相互の変換は簡単に行
える。
2. 立体角
光の明るさを定量的に表す場合には、どうしても光の広がりの角度を3次元的に表す
必要が生じ、その役割を果たす立体角は以下の通り定義される。半径
r
の球表面
S
を切り
取ってできる立体を考え場合に、この球中心からの広がりが立体的な角度を表す。(図 2)
Ω=S/r2 (3)
本来、面積
S
は球表面上であればどの様な形でも良いが、オーソドックスに球表面上の円
と考えれば、球中心から(照明系設計では光源から、と考えても良い)の2次元的な広が
り角度θ(半角)と、立体角Ωとの関係は
なので、
となる。
3. 重要な測光諸量の定義
ここで、放射量・測光量の単位について説明させて頂く。数式がある方が理解し易い
方もおられると思われるので定義式を挙げておく。
d
はその直後に記されている量の微小な
値であることを表している。例えば
dS
であれば微小な面積と理解して頂いて結構である。
物理的な放射量で記述すると、(測光量名称については[]内に示す。)
* 放射束 [光束] (Watt =J/t) [lumen] (5)
Q は放射エネルギーであって、電磁波(或いは粒子)として伝播されるエネルギー、
tは時間である。光源の周り総ての方向に放射されている単位時間当たりのエネルギーを
全光束[lumen]と言ふ。光源カタログには多くの場合、発光総エネルギーとしてこの値が記
載されている。以下の単位もこの値が元となり、何の量でこの放射束[光速]を割るかによ
って、定義が異なる。
* 放射照度 [照度] (W/m2) [lux] (6)
S’は被照明面上の面積。ある面積にどのくらいの放射束が到達しているのか?を表す単
位であって、そこには光の方向性の概念は含まれていない。であるから、見る方向で明る
さが大きく異なるような非照明面の評価には適さない。
* 放射発散度 [光束発散度] (W/m2) [lumen/m2] (7)
S は光源面上の面積。照度の裏返しで、単位面積あたりどのくらいの放射束が射出して
いるかを表す量である。
* 放射強度 [光度] (W/sr) [candela] (8)
Ωは光源から放射される光の形成する立体角(既述)である。光源のどこから光が出
ているかと言う概念は含まれていない。ただ、角度だけに注目する単位である。実際の光
源は必ず面積を持っている訳であるが、その光源を非常に遠方(光の放射角度分布のみが
顕著になるくらいの)から観察した量であると考えれば理解し易い。既述の全光束は総て
の方向への単位時間当たりのエネルギー量であるが、それを特定の方向で限定して考える
のが放射強度[光度]である。これまでの光源カタログには殆どの場合、指向特性として記
載されている値である(図 3)。
また、光源特性を照明系設計ソフトにマニュアル入力する場合には、この放射強度[光度]
と、放射[光速]発散度の分布を求められる場合が多い。
* 放射輝度 [輝度] (w/(sr・m2)) [candela/m2、nit] (9)
θは光源面法線と輝度方向の為す角度である。光源の単位面積あたりから放射し、測
定したい方向の単位立体角あたりに含まれる放射束を表す。光源の(LCD 画面の様なものを
考えていただいてもかまわないが)どの場所が、どの方向から見ると、どの様に明るく見
えるのか?と言う事を知るためには輝度という概念が不可欠になる。この場合、微小面積
dS
cosθが掛かっていると言う事は、分母となる光源面積が、測定方向から角度θで光
源を覗き見たときに歪んで見える光源の大きさ、であることを意味している。人間の網膜
には大略この見た目の大きさに比例して光源の微小区の面積が結像する。そこでの照度が
等しいと言う事は、人間にとっては同じ明るさに見えると言う事になる。照度は既述の通
り像面積に反比例するので、見た目の面積がたいへん重要になる。また、人間は数ミリ程
度に制限された直径の絞り、虹彩によって立体角的に制限された放射束を受け取るわけで
あるから(立体角をむやみに大きくとれない)、人間の網膜上の像照度を上げるためには
輝度を上げる事が必要になる。
人間が見た方向においての等輝度光源とは、同じ照度の光源像が網膜に得られるもの、
或いはカメラで撮影した場合には同様な均一照度分布の光源像が得られるものと考えられ
よう。他の単位と比べると、少し理解しづらい、この輝度については次回以降でさらに詳
しく触れさせていただきたい。
参考文献
1) 龍岡静夫:光工学の基礎(昭晃堂、東京、1990)
2) 辻内順平:光学概論Ⅰ(朝倉書店、東京、1979)
3) 谷田貝豊彦:例題で学ぶ光学入門(森北出版、東京、2010)
4) 牛山善太、草川 徹:シミュレーション光学(東海大学出版会、東京、2003)