LED 照明ノーツ 12
輝度について
前回は光の明るさを表すために測光量の単位について解説させていただい
た。その中で一番取り付きにくい輝度、と言うものを今回は取り上げ、さらに少
し詳しく解説させていただきたい。
1. 輝度とは
輝度の定義とは前回述べさせていただいたように、
(w/(sr・m2)) [candela/m2、nit] (1)
であって、光源から出ている単位時間当たりのエネルギー、光束を、その光の束
の開角を表す立体角、そして光源の面積で割った量であ(この時の面積は、
定する方向からの見かけの面積でなければならないが)簡単に言えば、単位時
間、単位面積、単立体角当たりに光源から放射されるエネルギーである。照度と
言う量は、方向に対しての感度は無く、光度と言う概念はこれとは対照的に場所
に対する感度が無い。輝度はこれらを統合する量である
それでは、どの様な場合に必要とされる、光の量であろうか?
輝度と照度の使い分け(1)
1 をご覧頂きたい。図 1(a)は様々な方向に均等に光を拡散するような一
般的な投影スクリーンに、像を結ばせている場合(反射でも透過でもどちらでも
良いが)、(b)はあまり拡散性の強くはない摺りガラスのようなスクリーンに像
を結像させて像を観察する場合である。(a)においては光はどの方向にも十分に
拡散されるので観察者がどこにいようと、明るさについては、見え方にそう変わ
りは無い。したがって、スクリーン上の単位面積当たりの明るさ、照度を測定す
(b)の 1
あるとおり、観察する方向により、或いは、スクリーンのどこを観察するかによ
り、目に届く光の量は大きく異なる。こうした場合には、位置と方向の両方を変
数とする輝度を測定する必要が出てくる。
輝度と照度の使い分け(2)
また、車のヘッドライトの場合には(図2)車の前のどのくらいの距離のと
ころにある被照明面が(例えば 10m 先の道路面が)どのくらいの明るさで照明さ
れているか、つまり、照度が重要視される。これは汎用的に被照明面にある程度
の拡散性を仮定せざるを得ないことに拠るが、(濡れた路面等を対象とする場合
には、ドライバーへの見え方に志向性が出てくるので輝度的な評価も必要となる
が。)
これと対照的に、テールランプ等の場合には、そこで投光される光が後続の
ドライバーに認識されることが目的であるので、輝度分布、或いは十分遠方から
輝度を考えた場合に、輝度と差がなくなる光度を用いてその性能を評価すること
になる。
輝度と照度の使い分け(3)
通常の室内照明を考えてみよう。取りあえずいろいろ作業を行う机の上の単
面積当たりにやって来る光りの量が十分であるか否かが問題になろう。つまり照
度が重要になる。作業に関わるもの、或いは認識にかかわるものには大きな拡散
性が一般的には考えられるであろうし、またそう仮定せざるを得ない。従って指
向性は無視できる。また、この机上の照度に、やはり拡散性の大きな壁等からの
間接光が照度として加わることになる。
これに比し、光源を人間が見上げる場合、どうしても目に入ってしまう部分もあ
るので、どの様に光源が見えるか、つまり眩しいかどうかの評価には輝度を用い
なければならない。これは角度成分だけを表す光度では駄目である。それは、
じ明るさが机上で保たれていても、狭い光原領域から放射している場合と、広い
領域から放射している場合では当然単位面積当たりから放射するエネルギーは
前者の方が高くなり、人間は眩しく感じる(図3)つまりどこから見ると、光源
がどのように光るかを表す輝度の評価が必要になる。
2. 輝度測定、輝度計算の大変さ
1 の二つのケースにおいても結局は双方、輝度を計算してしまっても、
迷いがなく良いのであるが、実際にはそう簡単な問題ではない。輝度には照度に
比べ角度と言う次元が加わっているので、2 次元で指定される位置それぞれに、
2次元で広がる角度世界が乗り照度の2乗の数の測定変数が必要となる。つま
り輝度は data の数が2乗になる。したがって、現状では、計算することも、測
定することも、手抜きをしなければ相当手間のかかることになる。また、data
数も多すぎて見通しも悪い。したがって、出来るだけ手間のかからない、見通し
の良い単位で照明系を評価することが重要となる。
輝度測定の原理を図4に示す。輝度を測りたい光源(被検査)部分の写真
をとると言う簡単な構造である物体までの距離 L と、レンズの口径 D は分かっ
ているので立体角Ωは、
2
2
2
L
D
として D に比して L が十分に大きければ計算できる。さらに、光源部分は撮像素
子上に結像し、結像倍率mが分かっていれば像の大きさ Sから披検査光源面の
見掛けの大きさ S が分かる。
m
S
S
この時、光源面がカメラの方向とθずれた方向を向いているとすると、実際
の面積よりややつぶれた面積の像が撮像素子上に得られる。そう大きな光全体の
広がり角を想定しなければ、この値は本来の面積に cosθを乗じた値と考えてよ
S (1)に cosθが組み込まれていることになる。
また、結像におけるエネルギー
F
は撮像素子より電気的に得られるはずであ
る。従って、レンズによるエネルギーのロスを無視すれば、(1)式に従って輝
が計算できる。
S
F
B
ただしこれは、カメラの方向から見た場合の一方向からの輝度なので、光源のす
べての方向の輝度が知りたければ、上記の測定システムをゴニオメーターの様な
ものに載せて、半球、場合によっては全球の角度範囲 scan data
理する必要がある。コンピュータの助けなしにはこれらの情報を生かすことは出
来ないが、最近ではこうした充実した輝度 data が主要照明系設計ソフトで利用
できる形で提供されつつある。
また、アークランプ光源などにおいては発光面と言うものが無く、電極間の
空間が光っているので、輝度で光源特性を表す必要があり、以前から図 5 の様な
輝度分布図が利用されている。アークランプの回転対称性、上下方向へ放射する
エネルギーの少なさ等を鑑みると、良くまとまった直感的に利用しやすい data
であるが、上述の通り光源からのある狭い範囲の方向への輝度分布を表している
のに過ぎない。
参考文献
龍岡静夫:光工学の礎(昭晃堂、東京、
2) :光Ⅰ(朝、東、1979)
3) :例で学ぶ光(森、東、2010)
4) R.McCluney:Introduction to Radiometry and Photometry
(Artech House,Norwood,1994)
5) 牛山善太、草川 徹シミュレーション光学(東海大学出版会、東京、2003