LED 照明ノーツ 15 ver1.1
レンズを使う 2
sinθの近似精度
前回から、照明系を形成するときに光学的には最も重要な要素と成るレンズ、或いはミラ
ーの光学的性質、使い方についてできるだけ簡潔に説明させていただく趣旨の“分かり易い
照明光学シリーズ”をスタートさせて戴いた。今回はレンズの齎す理想像点を考えるための
近軸理論の背景となる sinθの近似の精度について考へたい。
1.近軸理論の精度は?
前回お話しさせていただいたガラス、空気などが接する境界面における光線の屈折の方
向はスネルの屈折則、
2211 sinsin
nn
により計算できる。ここでの正弦関数 sinθは、無限の項数を持つ多項式を用いて
!5!3
sin
53
(2)
と表現できた。
因みにこれは sin のテイラー展開(Taylor expansion)であり、一般的な表現は


12
0!12
1
sin
n
n
n
n
(3)
である。
さて、ここで角度θが微小である仮定してしまえば上式は
sin (4)
と簡単になる。スネルの屈折則も
2211
nn
(5)
と非常に簡単な式になる。これらの簡単な式で光線の進み方を考えてしまおう、と言うのが
近軸理論であった。そのとき、前回の図 6(上図)における、収差という煩雑なものは消え
去り、同じく前回図 6(下図)における様な簡潔な体系内で光学系を考えることができる。
さて、それでは実際に(3)式における sinθの近似は、θの値によりどの様に誤差を生むか
考えてみよう。計算結果が下の表である。この中でθは角度であり表左の列は度数である。
しかし(3)式において角度はラジアンという単位で計算しなければならない。その値を 3
目に記す。(3)式において用いられる値である。(3)式に則り、3次とあるのは、
!3
3
(6)
5次とあるのは
!5!3
53
(7)
7次とあるのは、
!7!5!3
753
(8)
としてそれぞれ sinθを近似計算した値である。表 1には直接その計算値を(sinθの値と
比較して戴きたい。、表 2にはその時の sinθとの差を sinθの値で割った百分率で表して
いる。
θ sinθ θrad)3次5次7
1 0.017452 0.017453 0.017452 0.017452 0.017452
5 0.087156 0.087266 0.087156 0.087156 0.087156
10 0.173648 0.174533 0.173647 0.173648 0.173648
15 0.258819 0.261799 0.258809 0.258819 0.258819
20 0.342020 0.349066 0.341977 0.342020 0.342020
25 0.422618 0.436332 0.422487 0.422619 0.422618
30 0.500000 0.523599 0.499674 0.500002 0.500000
35 0.573576 0.610865 0.572874 0.573583 0.573576
40 0.642787 0.698132 0.641421 0.642803 0.642787
45 0.707107 0.785398 0.704653 0.707143 0.707106
50 0.766044 0.872664 0.761902 0.766120 0.766044
55 0.819152 0.959931 0.812507 0.819299 0.819150
60 0.866025 1.047197 0.855801 0.866295 0.866021
65 0.906308 1.134464 0.891120 0.906779 0.906299
70 0.939693 1.221730 0.917799 0.940482 0.939676
75 0.965926 1.308997 0.935175 0.967202 0.965895
80 0.984808 1.396263 0.942582 0.986806 0.984753
85 0.996195 1.483530 0.939356 0.999239 0.996101
90 1.000000 1.570796 0.924832 1.004525 0.999843
表1 sin の近似計算
θ sinθθ(rad)% 3 次% 5 次% 7 次%
1 0.017452 0.005 0.000 0.0000 0.0000
5 0.087156 0.127 0.000 0.0000 0.0000
10 0.173648 0.510 -0.001 0.0000 0.0000
15 0.258819 1.152 -0.004 0.0000 0.0000
20 0.342020 2.060 -0.013 0.0000 0.0000
25 0.422618 3.245 -0.031 0.0001 0.0000
30 0.500000 4.720 -0.065 0.0004 0.0000
35 0.573576 6.501 -0.122 0.0011 0.0000
40 0.642787 8.610 -0.213 0.0025 0.0000
45 0.707107 11.072 -0.347 0.0051 0.0000
50 0.766044 13.918 -0.541 0.0099 -0.0001
55 0.819152 17.186 -0.811 0.0180 -0.0002
60 0.866025 20.920 -1.181 0.0312 -0.0005
65 0.906308 25.174 -1.676 0.0520 -0.0009
70 0.939693 30.014 -2.330 0.0840 -0.0018
75 0.965926 35.517 -3.184 0.1321 -0.0032
80 0.984808 41.780 -4.288 0.2029 -0.0055
85 0.996195 48.920 -5.706 0.3056 -0.0094
90 1.000000 57.080 -7.517 0.4525 -0.0157
2 sin の近似計算(%)
15 度くらいまでであれば、なんと sinθをθと乱暴に置き換えてしまっても誤差は 1%程
度なのである。勿論これは一回の屈折についてだけの誤差であり、一本の光線は光学系内で
何回も境界面と出会い屈折する可能性もある。また、光線と面が交わる座標もその都度ずれ
ていくことになり(光線の角度と高さの誤差(1)、曲面形状の三角関数近似による誤差
(2) 等も乗ぜられ誤差分布の範囲は急激に増えていくことになり、簡単には誤差は十
小さいのか?等の議論はできないが、単純に一回の屈折ではこれだけしか、角度の誤差は出
ない。それに続く 3次近似ではさらに誤差は小さくなる。60 度付近まで1%に達しないの
である。5次、7次収差になると、計算は大変になるが、さらに微小な誤差となる。この 3
次近似は精度、計算負荷、計算結果の見通しのバランスが良く、3次収差論という光学設計
においては、1次近似の近軸理論と同様に、非常に重要な収差理論を形成する。以下には表
2の結果の絶対値をとったグラフ(図 3を示す。縦軸が誤差の%であり、横軸が 0度から
90 度までの角度である。
3 sin の近似計算(%)誤差絶対値
系列 1,2,3,4 がそれぞれ、1次、3次、5次、7次近似の誤差絶対値を表す。さらに絶対値を
用いない場合は図 4に示す。
4 sin の近似計算(%)誤差
上図と同様に縦軸が誤差%、横軸が角度である。
-10.000
0.000
10.000
20.000
30.000
40.000
50.000
60.000
系列1
系列2
系列3
系列4
これらの計算では夫々の sinθの近似計算の値から sinθの値を引き、sinθで割って、
分率を求めている。sinθ、θ、そして67)式の近似計算結果そのものは図 56に示
す。二つの図では、計算角度の範囲が異なるだけである。
5 sin 近似式の計算結果 0から 90
6 sin 近似式の計算結果 0から 180
光線追跡的にはあまり意味のない領域ではあるが、θがさらにどんどん増えて行けば、6
式第 2項の 3乗の項の絶対値はそれこそ指数級数的に増大し、図 63次近似の値は大き
く負の値へと逸れていく。5次近似においてもこの理由により正の 5次の項の影響が大きく
なり、正方向に発散する。当然、sin -1 から 1の間の周期関数なので、乖離は甚だしくな
って行く。
2.参考図書
1) 小倉敏布:写真レンズの基礎と発展(朝日ソノラマ、東京、1995)
2) 高野栄一:レンズデザインガイド(写真工業出版社、東京、1993)
3) 松居吉哉:結像光学入門(JOEM、東京、1988)