LED 照明ノーツ 17 ver1.1
レンズを使う 4
主点、主平面
前回はごく薄いレンズを考えて、近軸理論による結像式の適用について解説させていた
だいた。今回は光学系の厚さがある場合、よりリアルな場合においての考え方について述べ
させていただきたい。
1.焦点距離はどこから測るのか?
前回、レンズメーカーの式、
f
n
a
n
b
n
16-4
を取り上げさせていただいた。ここに、物体(被写体)のある空間の、そして像のある空間
の媒質の屈折率をそれぞれ n,n’として、物体からレンズまでの距離を
a
レンズから像まで
の距離を
b
として、f'は焦点距離である。この式が結像光学系の基本構成を考えるうえで非
常に重要であることはご理解いただけたことかと思うが、それでは実際の光学系に適用す
る場合、ごく薄い、という過程は、ご承知の通りほとんどの場合成り立たないので、焦点距
離、あるいは
a,b
なる距離をどこから測ればいいのか?という問題に突き当たる。今回はこ
の疑問についてお答えしたい。
2.主点とは
いきなり答えを持ち出して来て、恐縮ではあるが、これらの距離は主点という光軸上の点
から測るべき距離である。それでは、主点とは何かというと、以下の如くに作図で得られる。
前回、焦点距離については解説させていただいたが、厚さのあるレンズにおいては、この焦
点距離を求めるために近軸理論によりスネルノ屈折則を、
N
sinθ=
N’
sinθ
N
θ=
N’
θ
と近似した式を用い光線追跡(近軸光線追跡)を行う。その際、光軸に平行な光線を光学系
に入射させることになる。各面について上記屈折則を適用して光線が光学系から射出して
光軸と交わる点を探すことになる。この入射光線を光学系に入射屈折させる前にまっすぐ
そのまま、延長した方向に線を引き、近軸計算によって光学系から出てきた近軸光線に沿っ
て、出てきた方向と逆方向に線を引いてやると、これら二つの直線は交わる。この交点を含
んで、光軸に直交する平面を考える。これが主平面と呼ばれるもので、主平面と光軸との交
点が主点(H’と表記)と呼ばれる(1)
1
本連載で既に触れさせていた様に、前から光軸に平行な光線を入れれば、光はレンズの後
ろ側で集光し、後ろ側焦点距離(あるいは像側焦点距離)が得られ、レンズはそのままで、
今度は後ろから光軸に平行な光をいれてやれば、レンズの前側に前側焦点(或いは物体側焦
点距離)Hと表記)が表れる。従って、主点も前側、後側と二つ得られることになる。
結局、焦点距離というものも、主点から焦点位置までを測ったものであるし、レンズメー
カーの式における、
a,b
はそれぞれ、物体側、像側の主点から測った距離となる。
3.近軸光線追跡式
上の項ではいきなり主点が登場した。その性質は後述させていただくが、前節の通り主点
が近軸 光線追跡より得られるのであるから、興味のある方々のためにここでその光線追
跡の具体的手法について簡単に触れておきたい。
光線追跡式はレンズの i番目の面と、i+1 面への諸量の引継ぎといった形で、繰り返し計
算の形で記される。屈折率を
N
曲率半径を
r
光線がその面に到達した位置の光軸からの
距離(高さ)
h
、光軸に沿った次の面までの間隔を
d
とするとき、(添え字は面の番号を表
す。)
iiiiii
uNuN
11
1
11 - iii
du
h
2
ただし、
i
ii
i
r
NN
1
3
u
は面に入射する光線の角度である。光軸から測る。鋭角側を光軸から測って時計回りであ
ればプラス、反時計回りであればマイナスである。焦点距離を求めるときは入射光線は光軸
に平行であるから、その場合、
u
の初期値は 0である。また第一面への入射の高さ
h
1を決
める必要があるがこれは計算しやすいように 1で良い。近軸理論の範疇ではどの高さで入
射しても、平行光は一点に集まるからである。(2参照)
2 uを用いた近軸光線追跡
(3)式は屈折力と呼ばれる大事な量であり、光を曲げる力を表す。屈折面を挟んで
の屈折率の差が大きく、そして面の曲率半径が小さいほど屈折力は増大することが直感的
に理解できる。なるべく大きな屈折率のガラスを使えば、収差の小さい緩い曲率のレンズを
設計しても同じ屈折力が得られることになる。
このようにして、近軸光線追跡式を繰り返し計算し、結果としては最終面から出る光の高
h
と屈折率の乗じられた角度
Nu
が得られる。空気中にレンズがあれば、像のある場所
の屈折率は1であるから、直接角度
u
が得られることになる(エクセルでも簡単に計算で
きる)。近軸領域では
uu
tan
であるから、2 節で触れた、主点の導き方から鑑みて、
u
f
u
1
tan (4)
であるから、最終的な角度
u
の逆数が焦点距離となる。
また主点の位置は、この焦点距離と、最終面から焦点位置までの距離(バックフォーカス
BF と言う)の差から分かる。最終面の高さを h とすれば、入射の高さは 1 であるから、
BFhf ::1
hfBF
(5)
となる。ところで、主点位置を示す時の測り方であるが、今回も面から測り始めて、左側に
主点があったらマイナス、右側にあったらプラスである。従って、後ろ側主点位置を HB
すれば
fBFHB
(6)
である。ここでの主点位置、或いは BF などは光学レンズの単品製品カタログ等には、曲率
半径、厚さ、外径等と共に大抵、記されている。
因みに、この節の式は、(16-4)式、レンズメーカーの式と同じところから導かれるもので、
(16-4)式によっても近軸光線追跡は可能である。
4.主点・主平面の性質
主点・主平面の重要な性質を列挙する。
1)空気中に光学系があれば、前側主点(光軸上の)に入射した光線は後側主点から同じ角
度で出てくる。 3における角度①=②となる。詳しくは触れないが物体、像のそれぞ
れ存在する空間の屈折率が異なれば(例えば水中の被写体と空気中のフィルム)この角
度は異なる。
2)前側主平面に入射した光は入射したのと同じ高さで後側主平面から出てくる。
3 主平面上の光線高さは保持される
3)近軸光線追跡を実行してみれば分かるが、互いに平行な光線は必ず一点に集まる。一点
から射出する光線群についても同様である。近軸領域には収差は無い。従って、結像状
態は全て(16-4)式、レンズメーカーの式により、判明する。その式においての、すべて
の量は主点から測られている。従って、近軸領域では一対の主点主平面で光学系のパ
フォーマンスを全て表すことができる。
4)3)から繋がって出てくる事柄であるが、光学系のある部分のみを考えて主点を計算す
る時、そうした部分が複数集まって組み合わされ全体を構成する様な場合に、各部分の
主点のみを使って光線の挙動が分かり、さらに全体の焦点距離、主点位置等も計算でき
る。一対の主点の分割、統合が可能である。例えば前後群のレンズ構成の場合、前部
の一対の主点、後部の一対の主点計 4つの主点で、全群 total の一対の主点を計算する
ことが出来る(図 4
4
5)主点同志は共役点である。1)でも触れた通り前側主点に入ったすべての光線は総て後ろ
側主点から射出する。つまり一点に集まる光が、異なる一点から射出している様にふる
まう、点対点の結像関係が生じていると考えられる(図5)(より詳しく言うと虚物点、
虚像の結像関係である 5
図5 主点同志は共役点である
以上の事柄と(直接的には(4)(5)は除かれているが)光軸に平行な光線は全て焦点を
通過する、平面物体は、収差なく平面像として結像するなどの近軸結像の性質から、結像状
態を以下の如くに作図することが出来る(図 3
6 主点を中心とした結像関係
5.参考図書
1) 小倉敏布:写真レンズの基礎と発展(朝日ソノラマ、東京、1995)
2) 高野栄一:レンズデザインガイド(写真工業出版社、東京、1993)
3) 永田信一:レンズがわかる本(日本実業出版社、東京、2002)
4) 松居吉哉:結像光学入門(JOEM、東京、1988)
5) 牛山善太:シッカリわかる光学設計の基礎知識(日刊工業新聞、東京、2018),p.42