LED 照明ノーツ 18
レンズを使う 5
<光学系の最も基本的配置、近軸計算の例>
前回は光学系の厚さを考えて、主点、主平面というものについて説明させていただい
た。今回はこれまでの理屈を用いて、実際の光学系の基本配置であるところの近軸配置を
計算する手法について、例をとって解説させていただく。
1.近軸計算式の復習
今回例題で主に用いる式は、これまでに説明させていただいてきた、レンズメーカー
の式、
f
n
a
n
b
n
(1)
である。n,n’はそれぞれ物界、像界の屈折率、f’は焦点距離、
a
は前側主点 H から物体面
までの光軸に沿った距離、
b
は後側主点から像面までの光軸に沿った距離である。さらに、
物体の大きさを y、像の大きさを y’とする時、このyと y’の比が横倍率と呼ばれ、
b
y
a
y
(2)
なる関係がある。図1をご参照いただきたい。
1 光学系による近軸結像
2.近軸計算例
以下に、基本的には上記(1)、(2)式を用いて、必要とされる近軸諸量を用いる計算例
を示す。
例題 1:
以下の条件における、使用すべきレンズの焦点距離と、レンズから像までの距離を求めよ。
(図 2)
2 近軸計算例 1
300mmの長さのものを36mmの大きさに写したい
よって横倍率 m=36/300=0.12
1m程、レンズから先にある
a=1000mmまた、 b/ a=0.12 なので b=120mm
1/ a + 1/b=1/f なので f=107.1mm
例題 2:
焦点距離が分かっているレンズ(非常に薄いとする)に、図の様な光線①が入射している。
この時のレンズによってこの光線が屈折する様子を図示せよ。(3)
3 近軸計算例 2
手順
1)光線①を横切る光軸に垂直な物体平面を考える。位置は任意である。
2)この平面と光線①の交点 Pからはレンズ前側主点(レンズが極薄い場合はレンズ中心)
に向かい、同じ角度で後側主点から射出する光線が書ける。
3)物体面からレンズまでの距離、そして焦点距離が分かっているので、レンズメーカー
の式により、レンズから像までの距離
b
が分かる。
4)すると像平面が決まる。この平面と、2)における後側主点から出る光線の交点 P’P
の像点である。
5)従って Pを通過する光線は総て P’を通過するので、光線①はレンズの入射位置から P’
へと向かう屈折光となる。
因みに、図 3中の赤い光線の作図は光線①上の別の位置に物体平面をとった場合のもので
ある。結果は当然、上と一致する。
例題 3:
物体位置、物体の大きさ、焦点距離が分かっているときに、焦点距離が正、並びに負の場
合の近軸結像の作画をせよ。(図 4
4 凸レンズと凹レンズにおける像の作図
手順:
1)物体上部から光軸に平行に射出する光線は、像界で焦点を通過する。ただし負レンズ
の場合には、焦点は虚像となるので、光軸との平行な入射光はあたかもそこから光が
放射しているように像界で広がる。
2)また物体上部からレンズ中心(レンズ厚が無視できない場合には前側主点)に入射す
る光線は同じ角度で(後側主点から)射出する。これは正、負レンズどちらの場合に
も全く同じである。
3)上記1)、2)の光線の交点が物体上部の像である。従って、この部分から光軸に下し
た垂線が像となる。負レンズの場合にはレンズから右には、これら二つの光線の交点
が存在しないので、実際には像が存在し得ないレンズの左側に交点が出来、虚像が生
じることになる。ただし、像は倒れていない。
これに対し、より一般的な、実際に光線が交わって出来る像は実像と呼ばれる。
3. 様々な結像状態
例題3では負レンズによる虚像に触れたが、虚像は以下に示すように、負レンズばか
りが生じせしめるものではなく、正レンズも虚像を形成する場合もある。正のパワーを持
つレンズが、物体からレンズの距離を次第に近づけていく様子を図 5に示す。物体はレン
ズ左側に存在し、図では固定してある。レンズ位置からの像位置の計算は(1)式で行う
ことが出来る。
5 様々な結像状態
物体からレンズの距離が近づくのに従い、(1)によれば像位置はレンズから遠ざかっ
て行く。そしてついにレンズと物体の距離が焦点距離と同じになった時、像界では光線は
互いに交じり合わず、光軸に平行な光線となる。さらに物体とレンズが接近すると(焦点
の内側に物体が入り込むと)さらに光線は広がり、レンズの左側に虚像を生むことになる。
光線経路は、光線の方向を入れ替えても(逆方向でも)変化しないので図 5の場合、
物体位置と像位置を入れ替えてもそのまま成り立つ。その場合、左側が像面になるので、
物体位置が異なる場合、レンズ位置を変化させて、固定された像面に結像を生じさせてい
る図とも見える。これが一般的なカメラ等における、ピント合わせの仕組みである。
4.参考図書
1) 小倉敏布:写真レンズの基礎と発展(朝日ソノラマ、東京、1995)
2) 高野栄一:レンズデザインガイド(写真工業出版社、東京、1993)
3) 永田信一:レンズがわかる本(日本実業出版社、東京、2002)
4) 松居吉哉:結像光学入門(JOEM、東京、1988)