LED 照明ノーツ 20
レンズを使う 7
<レンズの収差について>
これまで、sinθをθと近似して光学系の結像について考える、近軸理論について解説
させて戴いてきた。今回は、より現実に近く、この近似を行わないで、スネルの屈折則を
sinθとして計算した、より現実に近い幾何光学的な光線追跡において現れる収差について
触れさせて戴きたい。
1.光線追跡
主に本連載 14 回で触れさせて戴いた様に、屈折率の異なる境界面における屈折という
現象はスネルの屈折則として定式化されている。
2211 sinsin
nn
1 球面におけるスネルの屈折則
境界面に対して垂直な方線に対して上記夫々の角度θを光線から計る。入射前がθ1であり
屈折後がθ2である。
n
1
n
2
は境界面前後の屈折率であった。
スネルの屈折則は一般的な解説においては境界面が平面であるが、レンズのように境
界面が曲面の場合には、上記境界面を入射点 Qに接する平面として考える。特に球面の場
合には簡単で、 1にあるように、球の曲率中心 OQを結んだ直線は自然と Qにおける
接平面と直交しているので、これを(1)式における法線とすればよい。
2 一つの球面による収差
これをコンピュータでスネルの屈折則を利用してきっちりと計算したのが図 2 である
(光軸に平行な光線群では無く、物点から放射している光線を描いてあるが)。明らかに光
の集中の傾向が現れている。しかし、どこに集まっているか?と考えればかなり混沌とし
た状態になっている。これまで、お話ししてきた近軸理論においては本来一点から出た光
は焦点と言う理想的な像点に収束するはずであった。ところが、実情は異なっていた。こ
の光線が理想的に考えられた一点に収束することからのずれを収差と呼ぶ。
2.収差の発生原因
この様な収差がいかに発生しているのか、少し考察してみよう。計算は総て(1)式、
スネルの屈折則により行われているわけであるから、考える拠り所はこの屈折式しかない。
光学系の光軸からの距離(以下、光線の高さと言う)がそれぞれ異なる代表的な光線
の屈折の様子を図 2 から観察すると、この場合にも当然、近軸理論的には光線は総て一点
に収束するはずである。しかし図から明らかなように、一点には収束していない。そして
明らかなのは、光線の高さが高い位置に入射する光線の(1)式におけるθ1、つまり入射
角は低い位置に入射する光線のそれに比べてはるかに大きい、と言うことである。確かに、
一点から射出した光線群が像として再び 1 点に交わるためには、レンズの高いところに入
射した光線が、低い位置の光線に比べて、大きく曲がる必要があり、入射角は大きくなる
必要がある。しかし、それにしても大きくなりすぎていないか?と言うのが図を見た素直
な感想である。甚だ乱暴な説明で恐縮である。いずれにしても、収差発生については、直
感的でもあり、そしてもう少しクリアーな説明をする必要がある。そこで、良く用いられ
るのがレンズをプリズムと見立てての解説である。
前回説明させていただいた、頂角αのプリズムにおいては、最小振れ角δ0とαは、
2
sin
2
sin 0
n
の関係にあった(図 3)
3 プリズムによる振れ角
この時、頂点を挟んで、光線の挙動は対称であり、プリズム内を光線は底辺(プリズムを
二等辺三角形と見立てた場合)に平行に進行する。
さて、球面で構成されたレンズに光線が入射する時には、図 1 にある様に、入射点 Q
における球の接平面を考え、そこに法線を立て(曲率中心と Q を結ぶ線となる。後述の計
算のため、この法線と底辺の為す角度をβとおこう。、そこからθ1を測りスネルの屈折則
(1)式を適用すれば良かった。と言うことは、ある点から出て、レンズに入射する光線
のパフォーマンスは表、裏面で光線が通過する点において定義される接平面で構成される
プリズムによるパフォーマンスと同じである。勿論、光線入射位置が変われば接平面も変
わり、頂角もかわってくるが。
ここで、簡潔のため両面が同じ曲率半径の両凸レンズによる結像を考える。
図4 多数のプリズムの連続でレンズを考える
4 にあるように異なる入射高さによって、異なる頂角のプリズムの存在が考えられる。
もし、光軸上の点光源 P から射出した光が、等倍結像(倍率 1 1 の結像) P’にすべて
収束するのであれば、それは無収差結像であるが、P,P’はレンズを挟んで対称な位置にあ
るので、光線の経路は、入射接平面、射出接平面により構成される仮想プリズムの最小振
れ角の場合の経路と同一のはずである。最小触れ角の場合から入射光線がずれれば、光線
P’を通過しなくなるからである。従ってこのレンズによる結像が無収差の場合には、
線入射位置によって決まるそれぞれの頂角αについて(2)式が成立しているはずである。
すると、
5 にある通り、
2
3
また、入射光線と光軸(底辺を含む)の為す角度をγとすれば(図 4)、
2
0
4
なので、よって、(2)式は
sinsinn4
となる。ここで曲率中心 O P までの距離をmとすれば(この距離は点光源 P から出て P’
に収束する光線を考える場合には不変となる。、図 5 から明らかなように
図5 プリズムでレンズの屈折を考える場合の諸元

sintancos rrm
cos
sin
tan rm
r
cos
cos
sin
sin rm
r
5
となる。さて、(4)式を計算して、
cossincossinsin
n6
ここで、(6)式に(5)式を代入すると、
cossincoscos
cos
sin
sin
rm
r
n
cos1
cos
cos
rm
r
n
cos
cosrm
m

coscos mrmn (7)
となる。無収差の場合には、光線進行経路はこの(7)式も満たさねばならない。(7)式、両
辺の量を図 6 に示す。
図6 収差の発生についての考察
図中、X は(7)式右辺の量、Y は左辺カッコ内の量である。X,Yはそれぞれ異なった位置に光
線が入射した場合のそれらである。明らかに X<Xであるが Y>Yである。
n、m はレンズ、点光源位置が決まってしまえば動かない量であるから、(7)式をどの光線入
射位置に対しても、常に満たすことは明らかに不可能である。従って、この場合、P,P点を
無収差で結ぶ最小振れ角プリズム平面の連続で球面レンズを形成することは出来ないこと
が分かる。収差が発生する。これを球面収差と呼ぶ。
3.参考図書
通信講座テキスト“光学技術の基礎講座”(トリケップス、東京、1993)