LED 照明ノーツ 28
レンズを使う 15
<ダブレットレンズの焦点距離とバックフォーカスを
実際に計算してみよう>
これまで、しばらく色収差について解説させていただいた。前回は一般的に存在する凸
凹の貼り合わせレンズ、ダブレットレンズにおける色収差の除去、そしてその時の硝子の選
択方法について説明させていただいたが、今回は少し色収差から離れて具体的なダブレッ
トレンズにおける焦点距離と主点位置等の近軸理論に基づくレンズの最も大切な基本量の
計算について考える。煩雑な計算のように見えるが実は単純な繰り返しにより成り立って
いる。こうした計算を経験することは、レンズ設計者以外の方にもレンズの基本構造をイメ
ージし易くなり有益である。
1. 近軸光線追跡
1.1 基本式
本連載 17 回において近軸光線追跡式について触れた。この公式を実際に使ってみ
ることが本稿の目的である。以下に復習して整理する(図 1)。
光線追跡式はレンズの i 番目の面と、i+1 面への諸量の引継ぎといった形で、繰り返し
計算の形で記される。屈折率を
N
、曲率半径を
r
、光線がその面に到達した位置の光軸から
の距離(高さ)
h
、光軸に沿った次の面までの間隔を
d
とするとき、(添え字は面の番号を
表す。)
iiiiii
uNuN
11 1
11 - iii
du
h 2
ただし、
i
ii
ir
NN
1
(3)
u
は面に入射する光線の角度である。光軸から測る。鋭角側を光軸から測って時計回りであ
ればプラス、反時計回りであればマイナスである。焦点距離を求めるときは入射光線は光軸
に平行であるから、その場合、
u
の初期値は 0である。また第一面への入射の高さ
h
1を決
める必要があるがこれは計算しやすいように 1で良い。近軸理論の範疇ではどの高さで入
射しても、平行光は一点に集まるからである。
また、(3)式は屈折力と呼ばれる、光を曲げる力を表す。屈折面を挟んでの屈折率の差
が大きく、そして面の曲率半径が小さいほど屈折力は増大することが理解できる。
このようにして、近軸光線追跡式を繰り返し計算し、結果としては最終面から出る光の
高さ
h
と屈折率の乗じられた角度
Nu
が得られる。空気中にレンズがあれば、像のある場
所の屈折率は1であるから、直接角度
u
が得られることになる。近軸領域では
u
f
u
1
tan (4)
であるから、最終的な角度
u
の逆数が焦点距離となる。
また主点の位置は、この焦点距離と、最終面から焦点位置までの距離(バックフォーカ
BF と言う)の差から分かる。最終面の高さを h とすれば、入射の高さは 1 であるから、
u
i=ui+1
ui
hi
hi+1
d’i
Ni N’i=Ni+1 N’i+1
i
i+1
1 uを用いた近軸光線追跡
BFhf ::1
hfBF
(5)
となる。ところで、主点位置を示す時の測り方であるが、今回も面から測り始めて、左側に
主点があったらマイナス、右側にあったらプラスである。従って、後ろ側主点位置を HB
すれば
fBFHB
(6)
である。
1.2 近軸光線追跡による計算例:単レンズの焦点距離の公式
2にある様な単レンズの焦点距離と主点位置を求める公式を作ろう。前項の近軸光線
追跡公式を用いて、以下のように諸量が設定出来る。ここでは角度にその界の屈折率を乗
じた換算傾角、αNu を用いている。
0
1
1
1
h
これらは、焦点距離を求める場合の、高さ1に入射する光軸に平行な光線を表す、御約束
の入力値である。そして以下の前後の二つの面の屈折力φ、計算に用いる換算間隔(空間
の軸上距離を屈折率で割った値)を準備値として計算しておく。
N
d
e
r
N
r
N
,
1
,
1
2
2
1
1
(準備)
以下では(1)(2)式を換算傾角、間隔を用いて 2回計算ループをまわしたことになる。
211111 0
h
1112 1
N
d
ehh
2112222 1
eh
f
e
1
2121
として焦点距離の逆数・屈折力が求められる。さらに以下の様に後側主点位置と、バック
フォーカスも求められる。
2
12
hh
HB
2
2
h
HBfBF
2 単レンズ
2. ダブレットの焦点距離、バックフォーカス、後側主点位置を求める
R2
d
N
R1
以下では、さらに光学系を拡張して 2 枚組のダブレットの焦点距離と主点位置等を計
算してみよう。ここからは公式化では複雑になりすぎるので実際の数値計算を行うことに
する。必要な条件は図 3 にある。ここでも、前節と同じで基本的には(1)(2)式の近軸光線
追跡式に換算傾角、間隔を用いて、光線の屈折[(1)]と移行[(2)]に対する繰り返し計算
を行っていく手法には変わりがない。
準備計算
φ1(1.563838-1)/66.269=8.5083×10-3
φ2(1.666796-1.563838)/(-44.524)
=-2.3124×10-3
φ3(1-1.666796)/(-191.02)=3.4907×10-3
e1=3.2/1.563838=2.04625
e2=1.5/1.666796=0.89993
繰り返し計算
α10、h1
α1α1+h1φ101×0.0085083α2
h2=h1-e1α1=1-0.0085083×2.04625
0.98259
α2α2+h2φ20.0085083+0.98259×-0.0023124=0.0062362α3
h3=h2-e2α2=0.98259-0.89993×
0.00623620.97698
α3α3+h3φ3 0.0062362+0.97698×0.0034907
=0.0096465
結果
f’=1/α3=103.665, Bf=h3/α3=101.278, ’=Bf-f’=-2.387
(設計の計算結果としては小数点以下 3 桁は必要)
SK11: nd=1.563838
SF19: nd=1.666796
3 ダブレットレンズの例
参考文献
[1] 小倉敏布:写真レンズの基礎と発展(朝日ソノラマ、東京、1995)
[2] 高野栄一:レンズデザインガイド(写真工業出版社、東京、1993)
[3] 松居吉哉:結像光学入門(JOEM、東京、1988)
[4] http://www.ohara-inc.co.jp/jp/product/optical/opticalglass/data.html
R1: 66.269
R2: -44.524
R3: -191.02
3.2 1.5