LED 照明系周辺の光学
散乱について考える。小さな物質に光が当たるとどうなるか
光の散乱の分類
散乱とはある定まった方向に進行する光束が物質にあたり透過、あるいは反射されてそ
の進行方向を細かく分岐させる現象を言う。一般的に我々の視覚的世界に対する物質形態
の認識、色の認識はこの散乱光による場合が多い。この散乱という現象の分類について今
回はまとめさせていただきたい。
物体が大きい場合の散乱
散乱現象は散乱される物体の大きさにより、その波長特性が異なる。物体が大きい場
(mm )には、反射・散乱は幾何光学的に行われる。反射・屈折の原理が支配す
る。一般的な虹の解析等は比較的大きなサイズの水滴に対し、幾何光学の理論を適用して
可能である。
次第に拡散物体が小さくなり、波長に近づくと回折現象の影響が大きくなり光線は物体
を取り囲む様に散乱される。後述するように波動光学的、或いは電磁光学的理論が必要とな
ってくる。
. レーリー散乱
本連載でこれまで触れさせていただいたように、波長に比べ十分に小さい反射物体を
(100nm 1/10 波長依存性を持ち、レーリー
Rayleigh scattering と呼ばれる。通常、開口エッジ部において起きる回折光により
微小物体が同心的に、これら回折光、散乱光に囲まれる状態になる。この場合、特定の
における単位体積あたりの総ての角度への散乱強度
I
は、
を比例定数、
N
を分子
を粒子の屈折率として、
kN
n
1
2
I
4
-(1)
として表わされる。分母に波長の4乗の項が含まれているために、短波長側の青い光ほど散
乱強度が強くなる。空気中の微粒子、或いは空気分子などによりレーリー散乱が起きるため
に、空は青く見える。また、レーリー散乱は偏光特性を持つ。
(1)式で表わされるレーリー散乱は分子、微粒子などが比較的まばらに存在する気 体中
においてのものである。分子の密度が格段に高い液体中においては、近隣に分子による散
乱光に波動的な位相関係が存在し、散乱光どうしが干渉により弱め合うと言う現象がおきる。
結晶性の件著な固体においては、結晶の規則正しい配列のため光の直進方向以外への
乱光は打ち消い、測されにくい(本連載第 2 回2節参照)
分子分布の規則性を持たない、そして熱運動する液体においては、変動はランダムであり、結
晶固体、気体における両方の散乱の性質を持っている。この散乱の数学的記述は、密
度分布
が完全にランダムであるとの仮定の基、 統計力学( 的処理により、
Smoluchorwski、Einstein らによって行われ、光が単位長進む間に散乱によって失うエネル
ギーの割合を示す散乱係数hは、を誘電率、kルツ数、T を絶対温度として
8
3
h
3n
4
1

2
2
3
nkT
-(2)
として表わされる。は熱力学における等温圧縮率であり、絶対温度 T
の体積と圧力の微小変化分、V,pにより、
1 V 

V p -(3)
T 0
となる。
特に近年、液体における光の散乱が注目されているのは、ガラス、或いはプラスチックの
溶融液体の固体化の製造工程においては、微視的には液体の組成がそのまま残されて、こ
れらの物質の光散乱を考える際には液体中の光散乱特性を考える必要があるからである。
. ミー散乱
1/10 程度以下の大さの反射物体よる散乱レーー散乱とな
る。また、mmオーダーから次第に反射物体が小さくなるのに従い回折の影響が大きくなる
も述べた。この領域ではスカラー回折理論による解析手法が取られる。つまり、光線追跡に
より波面を求めそれを基に、ホイヘンスの原理から光の伝播の様子が求められる。
ところが、
この理論は反射物体が0.
2mm程度の大きさ以上の場合にのみ安心して適用
できる。すな
わち、物体が小さくなり過ぎ、一般的回折近似理論の誤差が大きくなり、また完全に回折に
対する物体の大きさを無視する事もできないので、レーリー散乱の理論も成立し
存在する。この領域における任意な材質、任意の大きさの球による散乱
計算
ー(
Mie)理 )である。この理論により計算される散乱を便
的にミー散乱と呼ぶ。
ミー理論は多くの場合、物体の大きさが数m程 100nm 程度の大きさに及ぶ、大気中
の水滴、粒子などによる散乱の解析に用いられる。
ミー理論は任意の大きさの球に対して成立する理論である。レーリー散乱も大きさが無視で
きるものとして扱われてはいるが、導出の際には球による散乱として導かれているので、レーリ
ー散乱もミー理論の一部と考えることもできる。つまり、ミー散乱とは本質的には物理現象その
ものを表わすのではなく、上述の計算理論が空白の物体の大きさの範囲を埋めるべく利用さ
れる、実はより広い範囲に応用性のあるミー理論によって解析される散乱の、一つの呼び方で
ある。
ミー散乱は光の場に一つの小さな誘電体の球を置いた時の電磁場の散乱をマクスウェル
の方程式を適切な境界条件下で解くことにより数値的に解析される。任意個の球による散
乱においても、これら球の材質、大きさが等しく、かつランダムに分布し、お互いの間隔が波
長に比べて十分に大きい時適用可能であり、散乱された全エネルギーは1個の球によって
散乱されたエネルギーに個数を乗じたものに等しい。ミー理論の実用性が高いのはこの点
についてであるが、また限界もこの点にある。計算過程・結果非常に複雑なものとなり、
こでは省略するが、参考文献1)-5)に詳しい。
ミー理論による計算結果の一例を参考までに図 1(正木光氏、参考文献1より使用さ
ていただきました。)
に掲載させていただく。右から左に入射光が向かっていて、散乱粒
子を
心とした強度の角度分布である。粒子径ごとに何種類か重ねてプロットされている。粒子径
表すパラメータαが大きくなると前方散乱(入射光の進む方向への散乱)の割
が増えるこ
とが分かる。(
レーリー散乱の場合には散乱は前後対称である。)こ
ファクターに
より散乱の仕方をコントロール出来る可能性が見える。
また、ミー散乱の前方散乱には波長依存性が極めて少ない。従って、空気中の粒子が
大きくなる状態、スモッグや、雲粒等の存在が考えられるが、では散乱に波長依存性が無く
なり、レーリー散乱の場合とは異なり、全体的に白く見える。因みに、粒径が比較的小さい
合に顕著である後方散乱(入射光進行方向とは真逆の方向への散乱)に乱強
度の角度分布について波長依存性は存在する。人間が太陽を背にして立つと、太陽と逆の
視線の方向に、自分の影を中心とした、色付いた輪が観察できる、神秘的なブロッケン現象
6)はこの後方散乱の影響であると考えられる。
. その他の光散乱・ラマン散乱
ここまで取り扱ってきた一般的な光散乱現象においては、散乱物体に入射した光とそ
こから散乱される光の波長は等しい。この様な散乱を弾性散乱と呼ぶ。ところが入射光と
乱光の間で波長が異なってしまう散乱(非)が存在する。入射光とは異なる
波長
の散乱光が物質からから出てくる現象をラマン(Raman)
効果と呼び、この散乱をラマ
ン散乱7)、
8)と呼ぶ。そこでの波長の変化は物質に固有の性質であるため、物質の構造を探るためにラ
マン散乱を測定することは非常に有用な手段である。
. 参考文献
正木光:気象光学光学技術ハンドブック(朝倉書店,東京,1997)P1109
M.Born&E.Wolf: 光学の原理Ⅲ、第 7 /大学出版会、東京、
2005)
3) H.C.van de Hulst:Light Scattering by Small Particles(Dover, NewYork,1981)
4) C.F.Bohren,D,R,Huffman:Absorption and Scattering of Light by
Small Partickes(John Wiley & Sons,New York,1983)
佐藤文隆:光と風景の物理(岩波書店、東京 2002)
6) 3 (新,東,1993)P91
服部利明:非線形光学入門(裳華房、東京、2009 P131
8) D.L.Mills 、小林孝嘉訳:非線型光学の基礎(シュプリンガージャパン、
,2008) P86