(1)式で表わされるレーリー散乱は分子、微粒子などが比較的まばらに存在する気 体中
においてのものである。分子の密度が格段に高い液体中においては、近隣に分子による散
乱光に波動的な位相関係が存在し、散乱光どうしが干渉により弱め合うと言う現象がおきる。
結晶性の件著な固体においては、結晶の規則正しい配列のため光の直進方向以外への
散乱光は打ち消し合い、観測されにくい(本連載第 2 回2節参照)。ところが、
分子分布の規則性を持たない、そして熱運動する液体においては、変動はランダムであり、結
晶固体、気体における両方の散乱の性質を持っている。この散乱の数学的記述は、密
度分布
が完全にランダムであるとの仮定の基、 統計力学( 光学) 的処理により、
Smoluchorwski、Einstein らによって行われ、光が単位長進む間に散乱によって失うエネル
ギーの割合を示す散乱係数hは、を誘電率、kをボルツマン定数、T を絶対温度として、
8
3
h
3n
4
1
2
2
3
nkT
-(2)
として表わされる。は熱力学における等温圧縮率であり、絶対温度 T の変化が無い場合
の体積と圧力の微小変化分、V,pにより、
1 V
V p -(3)
T 0
となる。
特に近年、液体における光の散乱が注目されているのは、ガラス、或いはプラスチックの
溶融液体の固体化の製造工程においては、微視的には液体の組成がそのまま残されて、こ
れらの物質の光散乱を考える際には液体中の光散乱特性を考える必要があるからである。
3. ミー散乱
上述の様に、波長の 1/10 程度以下の大きさの反射物体による散乱はレーリー散乱とな
る。また、mmオーダーから次第に反射物体が小さくなるのに従い回折の影響が大きくなる事
も述べた。この領域ではスカラー回折理論による解析手法が取られる。つまり、光線追跡に
より波面を求めそれを基に、ホイヘンスの原理から光の伝播の様子が求められる。
ところが、
この理論は反射物体が0.
2mm程度の大きさ以上の場合にのみ安心して適用
できる。すな
わち、物体が小さくなり過ぎ、一般的回折近似理論の誤差が大きくなり、また完全に回折に
対する物体の大きさを無視する事もできないので、レーリー散乱の理論も成立しない領域が
存在する。この領域における任意な材質、任意の大きさの球による散乱
計算を担う理論がミ
ー(
Mie)理論( 1908年)である。この理論により計算される散乱を便
宜的にミー散乱と呼ぶ。
ミー理論は多くの場合、物体の大きさが数m程度から 100nm 程度の大きさに及ぶ、大気中
の水滴、粒子などによる散乱の解析に用いられる。
ミー理論は任意の大きさの球に対して成立する理論である。レーリー散乱も大きさが無視で
きるものとして扱われてはいるが、導出の際には球による散乱として導かれているので、レーリ
ー散乱もミー理論の一部と考えることもできる。つまり、ミー散乱とは本質的には物理現象その
ものを表わすのではなく、上述の計算理論が空白の物体の大きさの範囲を埋めるべく利用さ
れる、実はより広い範囲に応用性のあるミー理論によって解析される散乱の、一つの呼び方で
ある。