LED 照明ノーツ 34
レンズを使う 21
<絞りの役割>
光学系には必ず絞りというものがある。光学系内にそれらしい絞りが見当たらないと
しても、絞りと同様の役目をするレンズの外径、あるいは押さえ環、鏡筒などの金物が存在
する。今回はこの絞りについて解説させていただきたい。
1. 開口絞り
絞りとは簡単に申せば光学系に入ってくる光の量を制限する機構である。写真撮影的
には露出をコントロールする。非常に明るい環境下では絞りを絞って光量を制限してやら
ないと、フィルムや撮像素子の受光許容量を超えてしまい、適当な画像が得られない。逆に
暗い場所では通常よりも絞りを開き、光量を多く取り込む必要がある。工業用途などの光学
系においては可変ではなく、絞りの穴の大きさが固定されている場合も多い。
それでは絞りを何処に配置すれば良いか?ということになるが、光学系に回転対称性
があれば当然、光軸を中心になるように配置することが妥当である(図1)
図1 光軸に対する絞りの位置
光軸から離れた位置を通過する光線に比べて、光軸付近の光線の挙動は極端に変化しない
し、また物造りの観点からしても回転対象軸付近の性能は安定している。
またこれまでにも触れさせていただいたように、絞りを開く場合に、光軸付近から徐々に光
線を通していくという考え方が、近軸理論の背景となっている(図2)
絞り位置
図2 点光源からの光線追跡結果
さて、光軸をその中心にすると言っても、光学系には厚さがあり、またレンズ同士の間
の空間も複数ある場合も多く、一体そのどの空間に絞りを設定すれば良いのであろうか?
実際にはそこに自由度があり、設計者の意志に基づき設定されることる。ただ、セオリーは
ある。図3A,B をご覧いただきたい。
A,B
絞り位置1
絞り位置2
主光線
A
B
双方、レンズの構成は全く同じとする(複数枚構成と考えていただいても差し支えない)
絞りの位置、絞り径のみが異なっている。絞り径は双方、画面中心部分の照度が同じになる
ように決められている。近軸計算の範囲では全く差異がないので、倍率、物像の位置関係も
同じである。絞りの位置もどちらでも構わない。しかし、光束の通過位置を含めて観察する
と様相は大きく異なる。光線は軸外結像に際してレンズの全く異なる位置を通過している。
ここで分かることは、絞りをなるべく光学系の中心付近に配置すればレンズの大きさ
が小さくて済むということであり、そしてコンパクトである以上に、収差補正的にもレンズ
の端を光線が通る場合よりも有利であり、それはレンズ設計的には重要である。原則的には
絞りは光学系の中心部付近に配置するべきである。しかし、Bのようなタイプが必要とされ
る場合も多く(瞳を扱う回で説明させていただく)、あくまでも原則である。
何れにしてもこのように、明るさをコントロールする絞りを開口絞りと呼ぶ。
2. 視野絞り
開口絞りはいくら絞っても、幾ばくかでも光が通っている限りは、像の大きさを変える
ことはない。図3を見ていただいてもお分りいただけるとおり、最も画面の端に行く光束も、
絞りにより細くなることはあるが、閉まってしまわない限り光は届く。これに対して図4
様な絞りを考えてみよう。
図4 視野絞り
この絞りがどんどん閉まっていくと、それにつれて光の届く領域もどんどん小さくな
って行く。この様に視野を制限する絞りを視野絞りと呼ぶ。
照明光学系や顕微鏡などでは積極的に用いられる視野絞りであるが、一般的にはレン
視野絞り
ズ枠等が自然とその役割を果たしている場合が多い。円柱の状の筒の穴を斜めから見る場
合に、穴の大きさが筒の両端により制限されて見える。光学系の場合にはこの筒の中にレン
ズが存在し光路を曲げるので事情は若干異なるがやはり、ある限度を超えた角度ではこの
欠けが起きる。光学系の利用されるべき範囲でこうした欠けが起こることをビクネッテン
グ(口径蝕)と呼ぶ(図5)。中央から見ると図左のように円形に見える開口が、斜めから
見る場合に斜めから見る場合に一部が蹴られて見える。この場合、ビグネッッティングはレ
ンズの最前面と最後面の径により起きていることが光路図から分かる。
図5 ビグネッティングが起きている光学系の光路図
3. 主光線
1物点から出発して開口絞り前面に満ち、1像点に収束する光束内の無数の光線の内、
開口絞りの中心を通過する光線は、これら光線の代表として主光線chief rayと呼ばれる
(図3B。光線追跡により光学系の性能評価をする場合には、点光源の数だけ主光線が存
在することになる。像面上での横収差も便宜的に、この主光線の像面到達位置からのズレで
表現される。光束全体が大体どのような方向を向いているかの指標にもこの主光線の角度
が用いられる。
この定義は一般的なもので、光学設計の教科書等に倣うものであるが、光学系によって
は上記ビグネッティングが甚だしい場合もあり(そもそも開口絞り中心を通る光線が存在
しない時すらある。そうした場合には開口絞りの光線通過範囲の真ん中の光線を、あるい
は開口絞り面における光線通過領域の重心を通る光線を主光線として選択するする場合も
ある。光束全体の方向を問題にする場合にはこちらの方が適当である。
図1、図4におけるレンズには顕著なビグネッティングが起きているが(青い光線、
い光線)、青い光束に注目すると、絞り中央を通過する主光線は実は光束の偏った位置を通
過していることが分かる。
4. 参考文献
[1] 小倉敏布:写真レンズの基礎と発展(朝日ソノラマ、東京、1995)
[2] 高野栄一:レンズデザインガイド(写真工業出版社、東京、1993)
[3] 松居吉哉:結像光学入門(JOEM、東京、1988)