LED 照明ノーツ 35
レンズを使う 22
<コマ収差とは何か>
本連載で既に球面収差について触れさせて戴いたが今回は収差の基本的な形を 5つに
分類された 5収差のうちの二つ目としてコマ収差について触れさせて戴きたい。
1. コマ収差の発生
広義の意味ではコマ収差は球面収差に含まれてしまうように、その発生原因は本連載
21 回で触れた球面収差のそれ(1)と同様である。
1 球面収差の発生
球面収差であるから、点光源は光軸上の無限遠の位置にある。光線①と②が球面に入射、
折する際に入射角が大きく異なることが、これらの光線が光軸上の一点で交わらない、つま
り収差の発生する原因であった。それでは、点光源が無限遠にではあるが、光軸上に存在し
ない場合を考えよう。この時の光源は丁度、視線の方向からずれた位置に見える(視野に入
る)星の様なものである。すると2にある様に、図1と同様に、レンズの入射位置につれ
て入射角の大きな違いが起きる。
o
nn'
2 コマ収差の発生
光軸に対して傾いた光線が入射してくるので、球面収差の場合よりさらに入射角の差が大
きくなる可能性がある。図では①と②の光線に顕著である。この様に軸外物点からの光線が
1点に収束しない収差をコマ収差と呼ぶ。複数の面で構成されている光学系においてもこ
の収差は累積し、或いは打ち消し合いながらも多くの場合、光線の全系透過後も残存してい
る。それは球面収差、あるいはその他の収差と同様である。点像の画像としては以下の如く
になる。
図3 コマ収差
彗星の様な形になるのでコマ収差と呼ばれる。コマ(coma)とは彗星の核を取り巻いて
その周辺に広がるガスやチリによる尾の様なものを言う。このコマ収差は軸外収差である
が故、一般的に画面周辺になるほど顕著になる。
o
nn'
また2から、コマ収差とは光束の入射位置高さ(有限倍率の場合には開き角)によっ
て像の大きさが変わってしまうから起きる、と言うことも出来る(2B
2B 光線入射位置による像の大きさの違い
2. コマ収差の性質
4にある様なレンズ入射面上で何重もの輪帯上に入射した光線は3次収差論によれ
ば(本 HP 掲載の光学設計ノーツ第 46 回をご参照願いたい。)像面上では5にある様な
到着位置をとる。
4 入射面上の光線入射位置
o
y
0
5 コマ収差の収差図形、図 4の光線の到着位置のプロット
より詳細に見ていくと、入射座標内を図6左にある円周上に光線入射点を移動させると
すると、図6右にある様な図形を描く。ところが3次収差論によると左で一周するとき、
では二周するので図6にある様な入射座標と到着座標の対応関係が分かる。
図6 入射座標と像面座標上の光線の位置
60
y
0
0
①③
②④
y’
P
P’
入射座標
像面座標
入射座標①の光線は像面座標上①に到着する②は②に、という具合である。座標原点 0 は主
光線の位置で有り、像面上そこからの距離が横収差と成る。入射座標上①③の光線は像面上
までメリディオナル断面内に存在して像面上点 P から0までの収差をメリディオナルコマ、
これに対し入射座標上②④の光線は P’に達し、メリディオナル面に直交する面内に光線は
存在することになる。P’から 0 の横収差をサジタルコマと呼ぶ。図5の収差図形の円の 2
本の共通接線の為す角が常に 60 度で有ることを考えると、P’から 0 までの距離をrとす
れば P から 0 までの距離は 3r になり、コマ収差に関しては、常にメリディオナルコマはサ
ジタルコマの 3 倍の大きさになっていることが分かる。
コマ収差というものは、画面中心ではなく光軸から外れた周辺で発生するものである。
って、軸上からの点像、或いは光軸に沿った平行ビーム等を結像の対象とする光学系の場合
には考慮しなくても良い様にも思われるが、実際には光学系には製造上の誤差による傾き
も存在し、少なからずいくらかの画角が発生する(図7。従って、この様な場合にも画面
中心付近のコマ収差についての考慮が必要になる。
7 傾いたレンズの効果
傾いたレンズの
新光軸
本来の光軸
軸上光束
3. 参考文献
[1]松居吉哉:レンズ設計法(共立出版、東京、1972)
[2]中川治平:レンズ設計工学(東海大学出版会、東京、1986)
[3]久保田広:応用光学(岩波書店、東京、1980)
[4] 早水良定:光機器の光学Ⅰ(日本オプトメカトロニクス協会,1995)