LED 照明ノーツ 7 ver1.1
光源光度データからの照度分布の予測
今回は LED から放射される光を制御して、(LED を複数個配置したり、レンズ、ミラー、
拡散シートなどの光学素子を適当な位置に付加したりして、)所望の照明光を得るための設
評価技術の基礎となる、光源データ、照度計算の考え方について解説させていただきた
い。
1.コンピュータによる照明系の評価
近年の照明系設計においては、光源の比較的近傍においても明るさの分布、照明角度特性
の精度の高い評価が求められるため、非常に大量の計算が必要となる。また複雑な発光特性
の光源を扱ったり、光源が数多く存在したり、或いは後述の拡散シートやレンズ等の役割も
同時評価せねばならず、パソコン等で稼動する照明系評価ソフトウエアーと言うものがあ
る程度精度の高い設計には、どうしても必要になる。以下では、LED 製品のカタログ data
基にして光源の基本配置を行い、それをコンピュータによる照度シミュレーションで評価
した結果を示す。
本シミュレーションは照明系設計・評価ソフト“照明シミュレーター” 1)により行って
いる。
光源としては日亜化学工業株式会社の LED、NSPWR70CSS-K12)
を採り上げる。
の光源が横一列に7個、等間隔で並んでいる状態をご想像戴きたい。
2.光源からの距離と照度分布、照度分布の予測
ここで LED 光源が横一列に並んでいる平面を光源面と呼ぼう。この光源面から適当な
距離離れ、光源面に平行な平面(被照明面)を照明する場合を考える。これから説明させて
いただく照明系において、図1はその被照明面上の照度分布を表す。コンピュータ上で非常
に多数の光線を光源から発生させその行方を追い(光線追跡)シミュレートしたデータであ
る。等高線の様なもので照度の高低が表されている。照度は単位面積あたりを照射する光の
エネルギーを表すので、単純に照度の高い場所は明るく照らされている、と考えて戴いて結
構である。
2 に日亜化学工業 web サイト2)より得られるNSPWR70CSS-K1 の発光角度
特性を示す。
1 照度分布予測より定めた光源間隔を用いた照度シミュレーション
この光源単体からどの角度にどのくらいの割合でエネルギーが放射されているか(光度、
或いは放射強度)を表している。よく考えてみればカタログ上の、この発光角度特性から、
被照明面までの距離 L が定まっていれば、どの位の間隔で LED を並べれば被照明面上の照
(照度)ムラが目立たなくなるかについては、コンピュータを用い無くとも大方は予測で
きる訳である。ここで、その様な計算に基づき、光源面から被照明面までの距離 L 100m
mとした場合に、光源同士の間隔 d 80mmと決定した際の照度分布シミュレーション結
果が図 1 である(あくまでも照度の分布、被照明面上の照度比率である。この計算は行き
成り目標に到達できるほど単純なものでは無いが、間隔を調整しながら、何回も検証計算を
行い目標に近づく事は可能である。この場合の検証を行なってみると(図 3)
) d=80 とすると、隣り合う光源同士は中心から 40mm はなれた照度分布が被照明面上
で重なり合う事になる。この時の光源からこの重なり会う場所 Pへの光線の射出角度θは
tanθ=d/(2L)40/100 から求められ、この場合θ=21.8 度と成る。ここで、この角度に従
って図 2の製品 data に照らし合わせると、中心方向に対して 77%程度の強さの光度 I
出ていることが分かる。像平面上の Pにおける単独光源による照度 Eは後述(3.照度と
光度)の通り cos3θに比例するので、P0における照度を1とした場合に、0.77×0.80.616
に暗くなる。ただし Pでは少なくとも二つの光源からの影響が重なり合うので、0.616×2
1.23 程度の明るさとなるであろう。この程度の大雑把な計算でも大体の配置の感覚は掴
める。
) しかしこれだと、光源間の中点、つまり照度の谷となるところが、光源小面の peak
20%程度も明るくなる事になる。もう少し計算精度を上げる事を考えよう。ここで peak
位置 Pにそこから 80mm 離れた隣の光源による照度分布の影響は無いか調べてみよう。
tanθ=d/(2L)80/100 でありますからだいたいθ=38.7 度である。やはり図 2から、大略
光度比は 50%と見積もれる。従って cos3θも考慮して 0.24 程度の照度比が、P0に重なり
合っている事になる。隣接光源は 2つあるので結局 1.48 程度の明るさに P0はなっている
と見積もることが出来る。
) さらに精度を上げるならば、P点における、120mm離れたところに中心がある照度分
布の影響も考慮せねばならない。tanθ=d/(2L)120/100、θ=50.2 度、I=30%とすると
照度比は 0.0787、2倍で 0.157、つまり P点には、単独光源が齎す最大照度を1とした時
1.39 程度の照度が来ている事が予測できる。P01.48 と比較すると可也良い値ではあると
思われる。
実際にはさらに遠くの照度分布からの影響も考えられよう。また、光源面積が大きな場
合、或いは縦横2次元的に光源が並ぶ場合などにおいて計算はどんどん複雑になって行く。
その様な場合には照明計算プログラムによる計算が必要となって来る。光路中にレンズ系、
ミラー系、拡散系等が存在する場合には、手計算ではさらに予測は困難なものとなって行く。
3.照度と光度
上記の光度分布データを、光源の配置に役立てるために、光度と照度の関係について考え
てみる。
4 にある様な、面積
ds
の、上述の完全拡散面光源(輝度 B)でこれに平行に相対する
平面を照明した場合には面光源の鉛直方向の面積
dP
における照度
E
0
は、輝度に、立体角、
光源の面積を乗じ、それを受け取る側の面積で割ってやれば良いので、
となる。光源面と角度θをなす方向の被照明面上の同様の照度
E
は、光源の面積としては、
θ方向から見て、cosθ分だけ圧縮されて見える面積を採用せねばならないが、
ds
同様、
dP
も歪んで見えて、あとは上式と同様に考えて。
である。従って の関係になる。
もし完全拡散面光源ではなく、面法線に対する角度θ方向への光度の、中心方向(θ=0)
への光度との比が
I
(θ)=
I
0
/
I
θであるような光源を用いれば、
を比例定数として
と置く。ここでは、光源は面積を持っているのでどうしても光度を面積的な広がりと結び付
けなくてはならない。光度は本来、点光源に対して、あるいは光源を非常に遠方から測定し
た場合に定義される量であるから、面積と結びつく照度を、そこから導き出す場合には少し
工夫をする必要がある。光度の単位は光束/立体角なので、ここからはどのくらいの大きさ
の光源からどのくらいのエネルギーが出てくるかを知ることはできない。そこで、もし、
照明面上の照度の比を考えるのであれば、画面上のごく微小な面積から射出する光の立体
角度毎の光束の分布は、光源を無限遠においた時の厳密な光度(放射強度)分布と同じプロ
ポーションを持つであろう、と考える。その光度分布が光源面上の各微小部分で一定に保た
れているとすれば、上記の光源微小面積と単位面積との比を
k
として全面積
ds
、そして立
体角に乗じることにより、全光束が得られる。さて、軸外については、光源の面積だけが問
題になるので cosθの効果を考える必要がなくて(光度は、特定の方向に流れ出る明るさそ
のものであるので、光源の見た目の面積に影響を受けない)、
となる。光源の配置計算では、
I
(θ)に図 2 にある分布をあてはめ、この関係式を用いて
いる。完全な点光源のように、光度に指向性が無ければ
I
(θ)=1となり、
E
E
0にcos
3
θを乗じたものと成る。
3.汎用的な光源の設定方法
ここまでは、光源メーカ等の光度分布データをもとに照度分布評価を行うことを考てき
たが、照明計算プログラムで多く取り入れられている基本的な光源データ入力の方法につ
いて説明させていただく。
簡単に言えば、上記の光度と、光源単位面積当たりからどのくらいの光束(測光量ではル
ーメン)が放射しているかの二つの量が分かればよい。後者は光束発散度(測光量)或い
は放射量では放射発散度と呼ばれる。光源の面積が分かっていて、その面内で発散度の偏り
が無ければ、光源面全体から放射する光束を入力すれば良いことになる(カタログ等に出て
いる総放射量である。光源面内で、放射角度の偏り、或いは場所による発散度の偏りが
あれば、 5 にある様に、光源を幾つかのセクションに分けて、個別の光度と放射発散度を
入力する。図(a)(b)は分かりやすいように微小光源間に距離をとったかとっていない
かの違いしか無い。
5(a)
5(b)
5.参考文献
1) 照明 simulator、㈱オプティカルソリューションズ https://www.osc-japan.com/ssc/
2) 日亜化学工業㈱ http://www.nichia.co.jp/specification/jp/led_09/NSPWR70CSS-K1.pdf
3) 牛山善太、草川徹:シミュレーション光学(東海大学出版会、東京、2003)